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図書館TA(Cuter)に研究術をきいてみた: 塚原 壮平

図書館TA(Cuter)がどのように研究を進めているのか、論文の見つけ方・管理法などを紹介します。

研究方法を教えてくれる図書館TA(Cuter)は「塚原壮平さん(理学府)」です!

こんにちは。理学府修士課程2年の塚原壮平(つかはらそうへい)です。

専門は素粒子理論で、特に超弦理論による標準模型の構築に関する研究をしています。

このページの作成者

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塚原 壮平
連絡先:
本ガイドは図書館TA(Cuter)として勤務した際に作成したものです。

勤務期間 :2020年5月~
作成時身分:大学院生(博士後期課程)
作成時所属:理学府物理学専攻

こんにちは、理学府物理学専攻粒子系理論物理学研究室の塚原壮平です。素粒子理論(超弦理論)の研究をしています。
分野: A06_理学府

研究ツール

理論系の研究は極論紙とペンで完結してしまうのですが,より快適に,よりスマートに(願望)研究するために以下のようなツールを頻繁に使っています.

(1) GoodNotes
GoodNotesはiPadを使っている方なら,9割方はインストールされているであろうアプリです.名前の通りノートを取るのに使います.作ったノートをフォルダごとに保存したり,pdf資料に直接書き込んだり,とにかく便利の一言に尽きます.毎度分厚い計算用紙を持ち歩かなくて済むのも大変ありがたいポイントです.

図1. pdfに書き込みながら勉強できる

(2) Mathematica
数理解析用のソフトです.私は微分方程式を解いたり,解析解を得るのが難しい問題を数値的に解析したりするのに使っています.理論系の計算は大抵事足りてしまう優秀な奴です.ちなみにびっくりするぐらい高い.

(3) LaTeX
LaTeXは研究のツールというより文書作成用のソフトです.個人的な見解としてはwordよりも綺麗に数式を記述できますし,レイアウトが崩れにくいので,ゼミの資料や勉強のまとめノート,論文等なんでも作ってしまいます.コマンドを覚える必要があるため,最初は慣れるのに時間がかかるのですが,慣れてしまえば非常にコスパよく綺麗な文書を作れる優れものです.

素粒子理論と超弦理論

素粒子というのは10^(-15) mよりも小さく,世の中の最小構成単位と考えられている「物体」です.

図1. ひっぐすたんより引用

素粒子理論とはその素粒子たちがどのように相互作用しているのか,ミクロの世界はどのような模型で記述されるのかを探索していく学問領域になります.素粒子理論の中には「私たちの世界を統一的に記述する究極の理論とは何か」という問いがあり,その有力な候補と考えられているのが超弦理論です.

私の研究はこの超弦理論の枠組みで私たちが生きている世界,より具体的には真空を再現してみようというものになります.もし興味のある方は,デスクまでお越しください.

 

※素粒子物理学については以前作成したガイドがございますので,ぜひご覧ください.

論文の探し方

私が論文を探す時に使っているのは主にiNSPIRE HEParXivです。タイトルなどがわかっている時はGoogle scholorで検索することもあります。

iNSPIRE HEPは私の専門(素粒子理論)だけでなく高エネルギー物理学全般の論文を網羅しているサイトで、まずはここで探します。

arXivというのはまだ査読されていない段階の論文(プレプリント)を掲載しているサイトで、物理学の論文はよく査読にかけると同時にarXivにも投稿されます。投稿も閲覧も全て無料なので、非常に重宝しています。

探し方は目的によって異なります。

最新の研究をチェックしたい時

  1. arXivのhep-th(分野の名前)を選択し、newボタンを押すと最新の論文が表示されます。
  2. タイトルを眺めて気になるものがあればアブストラクトを見て読むかどうかを決めます。
  3. 読む場合はMendeleyに保存します。
  4. 時間がある時に読みます。なければ積ん読になります。

図2. Arxivの画面

研究で必要な論文を探している時

  1. iNSPIRE HEPを使ってキーワードで検索をかけます。
  2. タイトルを見て関連がありそうなものを探します。
  3. 関係ありそうなものを見つけた時はアブストラクトとイントロを眺め論文の概要を把握します。
  4. もし既に何らかの論文が手元にあるなら、その論文の引用文献、またはその論文を引用している文献を見ていきます。必要に応じてダウンロードしていきます。

図3. iNSPIRE HEPの画面

個人的に興味があり勉強したいと思ってる時(または勉強する必要に迫られている時)

  1. iNSPIRE HEPでキーワード検索します。タイトルがわかっている時はそれをそのまま検索します。
  2. 検索するときに「レビュー」にチェックを入れます。レビュー論文は最近の論文がまとめられていたり、分野の教科書的な使い方ができるので便利です。
  3. タイトルとアブストラクト、目次があればそれも眺めてダウンロードするか決めます。
  4. ちなみに研究できるレベルまで習得したい際は、その分野の第一人者を調べ、その方が出版された論文を全て読むという技もあります。

図4. 左側に適宜チェックを入れる

 

ちなみに最近ではSNS(主にTwitter)も良いツールです。僕の場合は分野の第一人者や気になる研究者、プレプリント情報をツイートしているアカウントなどをフォローしています。

論文の管理方法

僕は専らMendeleyで論文を管理しています。当初はEverNoteも使っていましたが、文献を管理するにはあまり向いていないように感じました。あまり駆使できてはいませんが、「修論関係」「勉強関係」のようにフォルダー分けできる点は便利です。

 

図1:Mendeleyの実際の画面

また早急に読みたいもの(読まなければいけないもの)などは、忘れないようにあえてプリントして研究室の机の目立つ位置に置いています。

九大に所属されている方はMendeleyの機関版を利用することができます。ぜひ活用してみてください!

Mendeleyについてはこちらまで

論文の読み方

僕の場合論文を読む際はMendeleyの論文をGoodNoteにエクスポートしてタブレットで書き込むか、書き込む量、計算が多い場合はプリントアウトして紙で読みます。途中で計算量の多さに気づくこともままあるので、ケースバイケースです。しかし、紙に書いた計算はかさばりますし行方不明になりがちなので、スキャンしたりファイリングしたりして整理するようにしています。

 

僕は論文のストーリーを意識して読んでいます。大抵次のような順番で読むことが多いです。

1.Abstractにさっと目を通す。

Abstractにはその論文で何を明らかにしたのかが必ず明記してあります。それを頭に入れて、論文のゴールをイメージします。

2.Introductionを読む。

Introductionには分野の背景知識や、解決すべき問題、その論文で何を解決したいのか、何が解決できたのか、その論文がどのような構成で書かれているのか、等重要な情報が多く含まれています。特にどのような問題意識があるのかは必ず抑えて読みます。

3.Conclusion やSummaryを読む(あれば)。

細かい計算はあとで確かめることにして、先に結論(まとめ)に目を通します。ここではその論文で何を明らかにしたのかを抑えていきます。論文の結果を端的に把握するためには,結構重要な作業です。論文によっては結論やまとめのパートがないものもあるので、その場合は飛ばします。

4.必要な箇所を読んでいく。

大まかなストーリーが頭に入ったら、必要な箇所を読んでいきます。もちろん全部読み通すに越したことはありませんが、「ひとまずこの論文はここの部分を読みたい」という場合も多いです。時間も無限ではないので、とりあえず読みたい部分を優先して読むようにしています。

 

留意点としては、IntroductionやConclusionを読んでもストーリー全体を完全に把握できるわけではないということです。やはりあまり馴染みのない分野だったりすると、理解度は低くなります。その時は、何がわかっていないのかをできるだけ明らかにして、先に進むことにしています。理論物理は数学と違いある程度のいい加減さも必要というのが持論です。もちろん程度の問題ですが。

その他研究で工夫していること

特別なことは何もしていませんが、効率よく研究を進めるために次のようなことに気をつけています。

可能な限りアイデアや計算はメモを残しておく。
研究はトライアンドエラーの連続です。思いついたアイデアを吟味・計算・検討・考察、その繰り返しになります。どのようなアイデアを試し、どんな計算をどんな過程で行ったのか、その痕跡を残しておけば、後々新しいアイデアを検討したり、議論したりするときに役にたちます。また、計算を残しておけば、その後同じ計算を繰り返す必要がなくなるので時短に繋がります。より精密にトレースできるように、メタレベルの思考までメモすることを心がけています。

「学びて厭わず」アウトプットとインプットの並行
僕はできるだけアウトプットとインプットを同時並行で実行するように心がけています。特に僕の分野は必要知識が多いと言われていて、それらを全て完璧にしようとすると、いつまで経っても研究に入ることができません。自分の今ある知識でアウトプットしながら、必要な知識を常に補給することが重要だと考えています。

没入と相談の線引きをする
僕は一つのことを考えていると周りが見えなくなることがよくあります。計算に没頭してしまい、気づけば徹夜することもあるぐらいです。しかし、どれだけ考えても自分では答えを出せないこともあります。その時はいくら計算に奮闘したとしても時間の無駄です。そうならないように、僕は自分にできそうなラインと人に聞いた方が建設的なラインを常に意識して線引きするようにしています。つい先日、僕はこれに失敗して、解析的に解けない積分を手計算で解こうとして2日ほど費やしてしまいました。

人とコミュニケーションをとってメンタル管理
研究で上手くいっているときは気分がいいものですが、そうではない時間の方が圧倒的に長いです。上手く結果が出ないと憂鬱な気分になり、他の人と比べてしまって、つい自分のことを卑下してしまいがちになります。研究はマラソンと同じで、長期戦です。どんなに上手くいっていなくてもまずは最後まで走り抜ける必要があります。そのため、例えば研究室のメンバーや友人とコミュニケーションを取り適宜リフレッシュすることは何より大切だと感じます。そうやって頭をクリアにすると、意外に考えが整理されてすんなり解決できてしまうこともままありますし、研究室のメンバーから予期せぬアドバイスをもらえることもあります。特に理論系の研究は基本一人作業なので、そういったメンタル管理の能力はとても重要です。