こんにちは。システム生命科学府一貫制博士課程3年(博士1年)の大西湧己(おおにしゆうき)です。
専門は神経生物学/行動遺伝学で、特に記憶を忘れる分子メカニズムに関する研究をしています。
*私の研究について詳しく知りたい方は、私が以前執筆したガイドをご参照ください。
研究を進めていくにつれて、「●●の正体は?」、「■■はどのような仕組みなのだろうか?」など様々な疑問が浮かび、それらの謎を解き明かすための様々な実験が思い浮かんでくることと思います。その中で、多くの実験を重ねて試行錯誤することは重要です。しかし、自分の体力の限界や、卒業(修了)までのタイムリミット、それから現在のコロナ禍での制約の中で、行える実験(内容、量など)にはある程度制限が出てしまいます。そのような状況でも、せっかくなので時間を無駄にせずに、「分かると面白い謎(重要な問い)を解く」ことに全力を注ぎたいものです。現在行っている実験が「本当に、自分の解きたい謎に近付けているのか?」、「分かると面白いことに迫れることを意識できているのか?」を今一度見直してみてください。その時に、「自分の実験の(究極的な)ゴール」や「最終ゴールに至るまでのストーリー」、そして「個々の実験の目的(意義)」を普段から意識して実験を行い、進捗を見直すことが大切です。これらの点を意識するだけで、論文執筆がとても見通しが付きやすくなります。
我々ヒトを含めて、生物は、経験を通じて、様々な情報(例えば、高校時代の思い出、講義で勉強したこと、昨日何食べたか?など)を記憶しています。そのとき、古い記憶が新しい記憶の邪魔をして混乱しないために、一部の記憶を忘れて、脳内にある情報を、「忘却」を通じて消去しています。この記憶の「忘却」に関する分子メカニズムは、記憶を獲得するメカニズムと比べると、ほとんど解明されていません。なぜならば、忘却は「いつの間に(受動的に)」起こるものだと考えられており、そこに「遺伝子が働いて積極的に忘れさせる機構なぞ存在しないものだ」、と長らく無視されていたからです。
そこで、記憶を忘れる分子メカニズムについて迫るために、線虫C. elegans(下図)という約1ミリの生物を用いて、研究を行っています。線虫の神経系は、302個という非常に少ない神経細胞から成り立っています。さらに、全ての神経細胞の結合がすべて明らかになっています。線虫は、ここまで神経回路が詳細にすべて明らかになっている数少ない生物の1つです。線虫のシンプルな神経系の利点を活かして、「行動などがどのように制御されているのか」や、「どのように学習が起こるのか?」などといった「脳」の機能の謎に、細胞レベル・遺伝子レベルで詳細に解析がなされています。
線虫C. elegans
詳しい研究内容を知りたい方は、私が以前執筆したガイド「線虫C. elegans ~約1ミリのモデル生物で切り拓く生命科学~」をご覧ください。
私は、主に、Pubmed(パブメド)とWeb of science を使って論文を探しています。"Pubmed"は主に生命科学系の論文を扱っている検索サイトで、よくお世話になっております。私は、上の2つの検索サイトを中心に、目的に応じて論文を検索しています。以下に、具体例を紹介します。
○目的の論文を探したいとき
気になる遺伝子の機能や実験手法などがあるときは、上記の検索サイトで気になる事柄についての「キーワード」を入力します(図1、3)。さらに条件を絞りたい時には、特定の年月日・雑誌などに絞って検索することもできます(図2、3)。
(図1) PubMed検索画面
"Advanced"をクリックすると、くわしく調べられる。(図2)参照。
(図2) PubMed Advanced search
ここで、細かく条件(分野、タイトル、出版年など)を絞って検索できる。
(図3) Web of Science 検索画面
○最新の面白そうな論文を探したいとき
これから紹介するのは、個人的に実践している最新の面白そうな論文を探す方法を2つ紹介します。
①ジャーナルのホームページから直接探す
各ジャーナルのホームページで最新号の内容をチェックしています。さらに、ホームページ上には、採録が決定されたばかりの論文(ジャーナルによって呼び名は異なるが、CellPress系列だと"Online Now"、Nature系列だと"Latest Research Article")も掲載されているので、そちらもチェックしています。
②SNS(Twitter)から情報を入手する
これは、①と比べて受動的に仕入れる方法です。ジャーナルのTwitterアカウントをフォローすると、新着の論文情報が自分のタイムライン上に流れてきます。気になったものは振り返れるように「いいね!」をして確認をします。私は、CNS(Cell, Nature, Science)とその姉妹紙(Neuron, Nature Neuroscience, Cell reportsなど)を中心にフォローしています。
○おまけ: その他論文検索ツール
①査読前(プレプリント)の論文から探す
査読プロセスを経ていない論文を投稿しているサイトとして生命科学系では"bioRxiv(バイオアーカイブ)"があります。私は主に、学会では発表されたが論文としてはまだ出版されていない内容を知りたいときに、このサイトで探しています(実際は、学会発表内でbioRxivにあることを宣伝しているケースが多いです)。bioRxivで注意するべきなのは、掲載されている論文は査読プロセスを経ていないものなので、もし正式に出版された場合はそちらを確認することを忘れずに(図4)。
(図4) bioRxiv 画面の一例
②線虫C. elegans関係に従事している方向け
モデル生物の1つである線虫C. elegans関連論文テキストから、目的のキーワードを抽出して検索できるサイトです。検索キーワードが論文のどの項(Introduction, Results, Discussion)のどの文章で用いられているのかを詳しく知ることができます。
私は、すべての論文は基本、Mendeleyで保存・管理しています。さらに、保存する際にカテゴリー別に振り分けています(図5)。
(図5) Mendeley 画面の一例(私の場合)
また、論文をプリントアウトした場合は、以下の写真のようなリングファイルに項目ごとに分けて保存しています(図6)。
(図6) プリントアウトした論文はリングファイルに保存している
○論文を読む態勢を整える
私の場合は、論文をプリンアウトするか、タブレットの場合はGoodNotesにインポートするなど、「書き込み」ができるような体制を整えています(現在は主に、タブレットで読んでいます)。さらに、論文を読んだ後、得られた内容を整理するために、Evernoteに概要をまとめています。
○具体的な論文の読み進め方
私は普段論文を読むとき(精読するとき)に方法を以下にまとめました。私は、論文の全体像をとらえながら読むことを意識しています。
(1) Abstract, Summary (論文の要約)
「この論文で明らかになったこと」にマーキングします。(私の場合は、オレンジでマーク)
↓
(2) Introduction(論文の導入部)
論文に掲載されている研究の背景や結果の概要が記されている部分です。ここでは、以下の3点に気を付けながら、研究の目的(問題意識やゴール)や明らかになった要素など、論文の大枠をつかみます。
★ここで意識しているポイント:
①いままで、どこまでわかっているのか?どこが明らかになっていないのか?
→「未だに明らかになっていないこと(解きたい謎)」、「この研究での目的」に水色でマーキング
②どのようなアプローチですすめたのか?
③この論文では、何が分かったのか? (オレンジでマーク)
↓
(3) Results (結果)
まずは、Figure すべてをざっと眺めて、どのような流れで進んでいくのか、大まかに把握します。そして、以下の3点を意識しながら、結果の内容を精査していきます。
★ここで意識しているポイント:
①個々の実験の目的はなにか?
②どのように証明されたのか?手法など→わからなければ、Materials and Method(材料と手法)の項目ヘ
③結果と、そこからいえることは?→もし、疑問に感じたら、メモを残す
↓
(4) Discussion (考察)
★ここで意識しているポイント:
①この研究は、どのようなインパクトがあるのか? (この研究の意義、面白味 例: 今まで知られていなかった新たなしくみが見つかった、今までは△△という説だったが、今回の研究では●●という説が浮上した、など)
②この研究の不十分な点は? まだ証明しきれていないこと、将来の展望など
ここでは、論文を精読する場合の手順を取り上げましたが、時間には限りがあるので、仕入れた論文をすべて最初から最後まで精査することはしません。気になる内容(手法、結果など)だけを確認したい場合は、確認したいところだけ搔い摘んで読みます。また、論文全体をざっくり把握した場合は、上記の(1)→(2)を経たのちに、(3)で結果の図を見て終わり、という流れです(もし、気になる場合は、精読したり、メモを残します)。
○現在までの進捗を定期的に整理する
様々な実験を同時進行で行っていると、個々の実験の進み具合などがこんがらがってしまいます。私は、それを防ぐために、定期的に(2~3週間くらいの間隔)で進捗を整理しています。そして、「いつまでにどれくらい進めるべきなのか」、「どのようなストーリーで実験を進めていくのか」、「今後行う必要のある実験は何か」などを計画を立てます。その際におすすめなのは、例えば「◆月の○○学会で発表する!」や「△△までに論文を投稿する!」など少し高めの目標を設定することで、研究に対するモチベーションを上げ、結果的に少し計画に余裕を持たせることができます(ただし、実験の詰め込みすぎは、体を壊すので注意です、、、)。
○悩んだら、研究室の方々などに相談!!
研究は、基本1人で考えながら進めるものですが、実験操作が上手く行かなかったり、実験結果の解釈に難儀したりなど、「壁」がつきものです。もしその場面に直面したら、1人で抱え込まずに、研究室の指導教官や先輩(後輩)、他研究室の同業者の方々などに相談してください!相談をすることで、自分が知らなかった知識や技術などに気づくことができ、実験をよりスムーズに進めることができます。
○体調を整える
実験を行う上で、集中力を保ちながら行うことは、実験の些細なミス(例: 試薬の量を間違える、反応時間を間違えるなど)を防ぐうえで重要です。もし、体調がすぐれない場合は、迷わずに休息をとってリフレッシュしましょう!(好きで研究やっていても、疲労がたまっている中で研究を行っても効率がとても悪くだけなので,,,)
○学会発表や論文などは余裕をもって進めよう
研究を行うにあたって学会発表や論文(卒論、修論など)執筆は避けて通れないものです。しかしながら、「なかなか筆が進まず後回しにして、気づけば締切りギリギリで切羽詰まって仕上げる、、、」という経験をされた方が一定数いらっしゃると思います(私もその一人です)。そこで、そのような思いをしないためにも、締切りから余裕をもって準備することをお勧めします。ーーーといっても、「そんなことわかってるけど、中々重い腰が上がらないんだよ!!」とツッコミをされた方。そのような方に1つおすすめの方法は、取り敢えず手を動かし始めることを勧めます。最初から完全な文章やスライドなどを作らなくていいので、まずは、箇条書きで発表や論文の全体的な構成から書き始めましょう。そのようにすることで、各項目に必要な要素が浮き彫りになり、図や文章を書くなど肉付けがしやすくなります。
○他人と比較しない
研究を行っていると、どうしても周りの同期などの成果と比較してしまい、自分の情けなさに落ち込んでしまうことがあるかと思います(例: 同期の論文が、高いインパクト・ファクターの雑誌に掲載された。自分は学振に落ちて、他の同期は通った。など)。そこで、相手に比較の「ものさし」を持っていくのではなく、過去の自分に「ものさし」を持っていくことをお勧めします。些細な事でも良い(例: 前よりも、○○分野の論文を理解できるようになった など)ので、自分を認めてあげましょう!そのようにすることで、自己肯定感を上げ、研究に対するモチベーションを上げることができます。