こんにちは。人間環境学府博士後期課程2年の森優希(もりゆうき)です。
専門は心理学で,特に実験参加者の特性そのものが実験結果に与える影響に関する研究をしています。
このとき,適切な査読を経て出版された論文であるかということを注意しながら論文を探すようにしています。無論査読を経たからといって必ずしも全てが科学的に正しい,というわけではありませんが,ある程度の品質保証にはなります。
プレプリント,紀要・学会予稿,これまでに見たことがない出版社・雑誌の論文は査読という点において特に注意しています。
arXiv (心理学分野ならPsyArXiv) などの,査読前の論文をアップロードして公開しているプレプリントサーバーに掲載された論文は注意深く読むようにしています (正式に出版されたあともプレプリントサーバーで公開されていることがあります。その場合はどこかに注釈があるはず)。
また,大学などが発行する紀要論文は多くの場合査読なしで掲載されるので参考文献を確認する程度に留めています。学会予稿も同様です (分野によっては学会発表の予稿が査読付き…ということもあるようですが,心理学分野だと査読がないことが一般的です)。
プレプリントと学会予稿については分野によって考え方が結構異なるので,研究室の指導教員や先輩に聞いてみましょう。
見たことのない出版社・論文誌のウェブサイトに飛んだときはまず真っ先にジャーナル名を調べます。その段階でサジェストに「predatory」と出てきたら「この論文は読む価値があるかちょっと怪しいぞ」と判断します。昨今学術界で問題になっているプレデタリジャーナル(※) についての知識があれば,サジェストだけで怪しいと判断できるのかわかると思います。
(※) 論文掲載料の獲得のみを目的とし,適切なプロセスでの査読を行うことなくそのまま出版するオープンアクセス (オンライン上で無料かつ制約無しで閲覧可能な状態に置かれている) の学術雑誌。ハゲタカ雑誌ともいう。
詳しく知りたい方はこちらのウェブサイトにアクセスしてください。
もっぱら英語も日本語もGoogle Scholarを使用していますが,日本語論文の場合はJ-STAGEを使うこともあります。
論文の探し方は大体以下のような手順です。
まず最初にアブストラクトを読んで論文の全体像 (どういう目的か,どういう実験をしたか,どのような結果が得られたか…) を把握します。その後に全体に目を通します。私は基本論文を熟読するほうなのですが,労力の割合としてはイントロ,考察 > 方法 ≧ 結果 というような感じです。
実験や解析手法を参考にしたい,という場合は方法のセクションを熟読します。結果については考察でも触れられるのでさらっと流します。
論文を読みながらラインを引いたりメモをとったりして,あとで見返した時に重要な点が分かりやすいようにしています (図1)。教科書的な論文や重要な論文の場合は授業のノートみたいに結構みっちりメモをとっています (図2)。
図1. Adobe Acrobatで論文を読んでいるときの画面。
ラインとメモが対応するので,ラインの箇所をクリックすると右枠のようにメモが出てきます。便利。
図2. Evernoteで論文のまとめを書いているときの画面。
心理学方面では超有名な再現性問題の論文についてまとめています。
実は結構論文の管理方法では迷走を極めていました。ようやく今のスタイルに落ち着いたところです。
学部4年生から修士1年生の途中まではMendeleyを使用していました。当時はメモに日本語が使えなかったので文献のデータベースとして使うことがもっぱらでした。その後はAdobe Acrobatを使ったり紙に印刷して読んだりしていましたが,Mendeleyが日本語メモに対応したので現在はMendeleyに回帰しました。
「あれも読もうこれも読もう」と探索的に探しているときは,ついついWebブラウザで読んでしまいます。手当たり次第検索していろいろ開くので,もうタブの数がえらいことに…。これは真似したらダメです。散逸してどこにやったかわからなくなります。
主要な論文で引用されている重要な論文だけど電子版が利用できないもの (他大学からコピーを取り寄せる,図書館に収蔵されている雑誌のコピー) はどうしても物理的な媒体を管理することになります。このときは読んで内容を電子媒体でまとめ,読み終わったものを論文ごとにまとめてファイリングしています。
和文雑誌 (日本語で書かれた学術雑誌) の中から査読つき論文を探す方法を紹介します。
英文雑誌 (英語で書かれた学術雑誌) の中から査読つき論文 (厳密にいうと「正当な査読を経た論文」) を探す方法を紹介します。
1. 雑誌名・出版社名から判断する
ハゲタカジャーナルの多くは英文雑誌であるため,和文編で紹介した手法が使えません。さらに,Google Scholarに「査読つき論文のみを表示する」というオプションはありません。これで何度査読なしのプレプリントや学会抄録を引き当てたことか。
そのため,Web of Science (要ログイン) やPubMed (生命科学,生物医学のジャーナルを主に収録),ScienceDirect,DOAJ (一定の基準を満たしたオープンアクセス雑誌のみを収録したデータベース) などの業界で一般的なデータベースに収録されているかどうかで判断する必要があります。
2. 有志のウェブサイトを見てみる
読者の方の中にはコロラド大学の司書であったJeffrey Beall氏の作成した捕食出版社のリスト (通称「Beall's List」) についてご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。Beall's Listを掲載したウェブサイトは諸般の事情により閉鎖されていますが,同様のリストがインターネット上にいくつか存在します。「リストの中にあるから査読や論文の質が確実に怪しい」とは言い切れませんが,ある程度論文の質を判断する上での手掛かりになります。
3. 教員に聞いてみる (学部生限定)
学部生の方は「こんな論文を見つけたんですが,この雑誌 (出版社) についてご存知ですか?」と論文を持ってそのテーマに詳しそうな教員に聞いてみましょう。大学教員は学部生よりもずっと論文を読んできているので,自分で何時間も悩むよりパッと解決します。
ただし,大学院生は (FrontiersやMDPIなど,業界内でも評判の分かれている出版社を除いては) 十中八九「自分で判断しろ」と言われます。
私が研究 (特に先行研究の調査) に活用しているツールやサービスを紹介します。
(1) Evernote
読んだ論文・書籍をまとめるのに使っています。無料版にはある程度容量制限がありますが,パソコン本体のストレージを食い潰さないのでストレージ容量に余裕がない方にお勧めです。
参考文献のリンクをまとめの中に入れることもできるので,「この論文読みたいな」と思った時に素早くアクセスできます。
(2) 九州大学附属図書館
「このトピックで重要な論文だから読みたいのに,電子版が使えない!!」という事例には何回も遭遇すると思います。実際何度も遭遇しました。
どうしても読みたい論文は図書館に所蔵されている書籍版をコピーしたり図書館経由で他の研究機関から取り寄せたりすることができます。コピー取り寄せについては,条件を満たせば費用補助によって無料になるので試してみる価値はあります。
電子版が使えなくても九大図書館に蔵書がある,という例は結構あります。ただし紙なのでご利用は本当に計画的に…。
(3) unpaywall
購読契約をしていないと読めない雑誌の論文が機関リポジトリやプレプリントサーバーなどに収蔵されているかを調べて,無料で利用できる場合にはpdfを提供してくれるwebブラウザプラグインです。九大が契約していない雑誌でもたまに利用できることがあります。
合法的に公開されているものを活用しているので,一切法に触れることなく読みたい論文を入手できるのが最大のメリットです。一部の研究機関 (千葉大学,国立情報学研究所,九州大学) でも利用法が紹介されています。
(4) ResearchGate
研究成果の公表や参加者の募集などを行う研究者向けのSNSサイトです。上記の手段を使っても読みたい論文が出てこない!というときに使うと案外出てきます。実際に論文の取り寄せを請求した際にReseachGateに掲載されているpdfを紹介されたことがありました。
ResearchGateで公開されていない論文でもpdfを簡単にリクエストすることができるので,試してみてはいかがでしょうか。