冒頭でも述べましたが、日本では、2013年4月に定期接種化され、小学校6年生から高校1年生の女子を対象に、無料でワクチンを打てる制度が導入されました。しかし、副反応などの問題が大きく報道されたこともあり、2013年6月から2021年の間、積極的接種が差し控えられていました。
ワクチン接種後の副作用として、頭痛や関節痛、筋肉痛、発熱などの副作用が生じることが報道されました。副反応についてのニュースを見たことがある方も、多いのではないでしょうか。私自身も、歩けなくなって車椅子に乗っている女の子たちが取材に応じ、痛みやつらさを訴える様子をテレビで見たことを覚えています。
WHOは、2015年12月、HPVワクチンの安全性についての声明を出しています。この声明の中で、日本は事実上名指しで批判されるという異例の事態でした。
The circumstances in Japan, where the occurrence of chronic pain and other symptoms in some vaccine recipients has led to suspension of the proactive recommendation for routine use of vaccine in the national immunization program, warrants additional comment. Review of clinical data by the national expert committee led to a conclusion that symptoms were not related to the vaccine, but it has not been possible to reach consensus to resume HPV vaccination. As a result, young women are being left vulnerable to HPV-related cancers that otherwise could be prevented. As GACVS has noted previously, policy decisions based on weak evidence, leading to lack of use of safe and effective vaccines, can result in real harm.
※GACVS:WHOワクチン安全性諮問委員会
2022年から再びワクチン接種が推進されるようになりましたが、日本における子宮頸がんワクチンの接種率は他国と比較してもかなり低い割合となっています。
日本において、2023年にHPVワクチンを3回接種した人の割合は、26.2%と報告されており、2019年よりは増加しているものの、依然として低いことが伺えます。
WHOは、2020年に、子宮頸がんを撲滅するための世界戦略を打ち出しており、その中で、以下の目標を提案しています。
the following 90–70–90 targets that must be met by 2030 for countries to be on the path towards cervical cancer elimination:
・90% of girls fully vaccinated with HPV vaccine by age 15 years
・70% of women are screened with a high-performance test by 35 years of age and again by 45 years of age
・90% of women identified with cervical disease receive treatment (90% of women with precancer treated, and 90% of women with invasive cancer managed)
目標の1つ目、「15歳までにHPVワクチンを完全に接種した女子は90%」とされています。日本は、まだまだWHOの目標に届いていないのが現状です。
2019年に、WHOは、予防接種ストレス関連反応(ISRR)という概念を提唱しています。これは、新生児期から成人まで、予防接種を行うあらゆる年代において、接種に関連した様々なストレスが原因となって起こるとされる多様な症状に関する包括的概念です。
※HPVワクチンに限った概念ではありません。
ストレス反応は身体的・心理的・社会的因子が複合的に絡み合って生じるため、これらを総合的に考えて、十分な対応をすべきとしています。ISRR発症のリスク因子には、注射に対する恐怖心、注射にまつわる過去の良くない経験、血管迷走神経性失神の既往などがあります。
ストレス反応には、接種後5分以内におこる急性ストレス反応(めまい、吐き気、発汗、過換気など)と、遅発性反応として解離性神経症状反応(DNSR)があるとされています。DNSRの症状としては、矛盾する持続的な動き、一定しない歩き方や姿勢などがあります。
詳しく知りたい方は、下記をご参照ください。
子宮頸がんワクチンの安全性について、WHOは数年ごとにワクチン接種後の有害事象に関する最新データを分析しています。それによって、2価・4価・9価のいずれのワクチンにおいてもワクチンとワクチン接種後の有害事象に因果関係はなく、HPVワクチンの安全性は極めて高いとの報告を出しています。
日本においては、子宮頸がんワクチンに関する報道に対して、いち早く研究を行ったのが、名古屋市でした。名古屋市は、2015年、名古屋市に住民票のある小学校6年生から高校3年生までの女子約7万人に対してアンケート調査を行っています。そのうち、約3万人から回答があり、分析が進められました。速報で提示された結果は、子宮頸がんワクチンとの因果関係が疑われている24の症状のうち15症状において、年齢で補正するとむしろワクチン接種群の方が少ないという衝撃的なものでした[1]。しかしながら、これで万事解決、となったわけではありません。この研究を主導していた名古屋市が、調査結果の速報で発表したオッズ比(接種した人がしていない人に対してどの程度症状が起こりやすいかを比較した尺度)を削除し、集計結果のみを開示しました。現在も名古屋市のホームページにデータが公開[2]されています。
この「名古屋スタディ」は、2018年に鈴木貞夫らによって論文[3]として公表されました。しかし、異例なことに、八重ゆかり、椿広計が同じデータを用いて真反対の結果を示した、もう一つの論文が2019年に発表されています[4]。「八重・椿論文」では、「鈴木論文」の統計解析方法は誤っており、ワクチン接種とワクチン接種後症状に関連があると示しています。これに対し、2019年に、鈴木氏は、レター[5]で反論しています。反論の内容としては、接種群と非接種群で研究期間の起点をそろえていない、著者が反HPVワクチン活動を行っている薬害オンブズパーソン会議のメンバーでありながら利益相反(COI)を表明していないというものです。八重氏らは同年、さらにレター[6]で反論していますが、編集部の判断によって議論が打ち切られています。本来であれば、問題となった論文に関しては徹底して議論が行われ、撤回して再検討が行われますが、中立性を欠いた対応がとられています。
その他、厚生労働省は、2015年、大阪大学の祖父江氏を中心に、『青少年における「疼痛又は運動障害を中心とする多様な症状」の受療状況に関する全国疫学調査』を行っています[7][8]。これにより、HPVワクチンの接種歴がない者においても、HPVワクチン接種後に生じた症状と同様の症状が一定数存在したことが報告されています。
2024年現在、各ワクチンにおいて、発生しうると考えられている副反応は、以下の通りです。
副反応が怖いという気持ちを持つ方、もし起きてしまったらどうしたらいいの?と思う方はいらっしゃると思います。HPVワクチン接種後に生じた症状について、適切な診療を提供するため、厚生労働省は、以下のような相談先を提示しています。
❶接種後に、健康に異常があるとき
まずは接種を受けた医師・かかりつけの医師に相談しましょう。
その他に、ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種後に生じた症状の診療に係る協力医療機関が定められています。各都道府県に1つ以上の協力医療機関があり、九州大学病院もその1つです。(※協力医療機関の受診については、接種を受けた医師またはかかりつけの医師に事前相談するようにされています。)
また、この協力医療機関の中から、地域ブロック別に拠点病院を設け、「地域ブロック拠点病院整備事業」という事業も設立されています。これは、ワクチン接種を進めるにあたって、HPV感染症の予防接種に関する相談支援・医療体制の強化を図ろうとする事業です。拠点病院を中心に、各自治体や医師会などの関係団体、医療機関が連携を取り、情報共有、診療相談、調査協力などを行っています。九州・沖縄ブロックの本部は九州大学病院になっています。
❷不安や疑問があるとき、困ったことがあるとき
各都道府県において、ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種後に症状が生じた方に対する相談窓口が設置されています。
何か不安なことや疑問がある場合に、電話で対応してくれる窓口です。福岡市は、保健医療局健康医療部保健予防課(7月からは保健医療局健康危機管理部健康危機管理課)と教育委員会教育支援部健康教育課が窓口です。
❸HPVワクチンを含む予防接種、インフルエンザ、性感染症、その他感染症全般についての相談窓口
「感染症・予防接種相談窓口」というものがあり、HPVワクチンを含む予防接種、インフルエンザや性感染症などその他感染症全般について相談に乗ってくれる窓口です。
❹予防接種による健康被害救済に関する相談
「予防接種健康被害救済制度」というものがあります。これは、予防接種を受けた後に健康被害が生じ、それが接種を受けたことによるものであると認められた場合、市町村による給付が受けられるという制度で、HPVワクチンに限ったものではありません。自分が住んでいる地域の市区町村の予防接種担当部門に相談することで、給付を受けることができます。
ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種に関する相談支援・医療体制強化のための地域ブロック拠点病院整備事業~九州・沖縄ブロック~,「ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種に関する相談支援・医療体制強化のための“地域ブロック拠点病院整備事業”とは」(参照:2024年8月9日)