4人目の受賞者は田中耕一博士です。
田中氏は受賞時に博士号を持っていなかった極めてめずらしいノーベル化学賞受賞者であり、メディアでも何度も取り上げられているので、ご存じの方も多いと思います。
受賞理由は「生体高分子の同定及び構造解析のための手法の開発」です。
生命活動で重要な役割を果たしているタンパク質は、以前は質量分析(重さを測ること)が非常に難しいと考えられていました。
理由は、分析しようとしてレーザーを当てると簡単に分解してしまうからです。
そこで、田中氏はグリセリンとコバルトの混合物を混ぜてレーザーを当てると分解せずにうまく分析できることを見つけたのです!
測定の原理を簡単にご紹介すると、イオン化されたタンパク質は、その後、箱のようなものの中を通っていきます。
その長さをLとすると、Lだけ進むのに大きさの大きな分子ほど質量が大きいので長くかかり、小さな分子はすぐに通り抜けてしまいます。
この時間を測定することにより、分子の大きさ、すなわち分子量を測定する、という手法なのでTOF(Time of Flight)という名前が付いています。
タンパク質を分析することができるようになったということで、様々な分野の研究が加速していきました。
例えば、狂牛病を引き起こすプリオンもタンパク質であり、アルツハイマー病を引き起こすとされるアミロイドベータもタンパク質です。
田中氏の研究成果を基に開発されたMALDI-TOF MSという分析手法は私もよく利用する分析法で、幅広い分野に大きな影響を与えています。
田中氏は今も島津製作所でフェローとして活躍されており、さらに感度の高い分析法の開発に挑まれているとのことです。