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★線虫 C. elegans ~約1ミリのモデル生物で切り拓く生命科学~: 線虫C. elegansとは?

たった1ミリのモデル生物、線虫C. elegansを用いた研究について解説します。

このページでの参考文献

線虫C. elegans って何者?

 

【図3】 線虫 C. elegansの雌雄同体と雄

(Wormatlas(https://www.wormatlas.org/hermaphrodite/introduction/Introframeset.html)より引用、加筆)  

 

【動画1】 線虫 C. elegansが動いている様子

    線虫が動いている様子を記録したもの。サインカーブを描きながら進んでいるのがわかる。

 

  線虫 Caenorhabditis elegans (ノラブディティス・エレガンス, C. elegans (シー・エレガンス))は、体長約1mmの小さな生物で、動物の分類では「線形動物(魚に寄生することで有名なアニサキスと同じ仲間。ただ、C. elegansは非寄生性です。)」の仲間です。上にあるYoutubeの動画【動画1】をご覧いただければわかりますが、きれいな(elegantな)サインカーブを描きながら進む様子から、C. "elegans"と名付けられたそうです。(*以下、文中に登場する「線虫」は、断りのない限り、"C. elegans"のことを指す。)

 線虫には、雌雄同体の2つの性別が存在します。個体のほとんどが雌雄同体で、1つの個体の中で精子と卵を受精(自家受精)させて、個体を増やします【図3】。ごくまれに(約0.1%)雄が出現し、雌雄同体と交尾を行い子孫を増やすこともできます【図3】

 線虫は、自然界では土の中で細菌を食べて生活していることが知られています[1]。研究室では、エサとなる大腸菌が塗っている寒天プレート(【図4】)で飼育しています【図5】

【図4】 研究室での線虫 ~飼育しているプレート(NGM (Nematode Growth Medium) プレート)

 NGMプレートという寒天プレートに、エサである大腸菌が塗ってあります(中央の白い部分(見にくいかもしれませんが、、、))。研究室では、このエサが塗っているプレートで線虫を飼育しています。

 

【図5】 プレートにいる線虫を顕微鏡で覗いてみると、、、

  エサのあるプレートで飼育している線虫は、肉眼では糸くずみたいに見える(左写真、見えづらいかもしれませんが、、、)。顕微鏡で観察すると、右の写真みたいに、サインカーブを描きながら進んでいる様子が見れます。

 

参考論文

[1] Frézal, L., & Félix, M. (2015). C. elegans outside the petri dish. eLife4https://doi.org/10.7554/elife.05849

線虫の一生 ~生活環(ライフサイクル)

 図6】 線虫の生活環(ライフサイクル)(wormaltas(https://www.wormatlas.org/aging/introduction/Images/aintrofig1leg.htm)より引用、加筆) 

図中の時間は、25℃で飼育した場合にかかる時間を示している。線虫は通常、15~25℃の間で飼育され、20℃だと25℃の時の1.3倍、15℃だと約2.1倍かかる。

 

 線虫は、卵から孵化してから4回脱皮を経て、成虫へと成長します【図6】。20~25℃で飼育すると、約2~3日で成虫になり、一生の間に約200~300個の卵を産みます。その後、約2週間ほど生存します。ただ、幼虫期(L1)で生育環境が悪い(エサがない、密度が高いなど)と、「耐性幼虫(Dauer(ダウアー) larva)」を形成し、条件が良くなるまで待ちます。このDauerの状態だと、約2~3か月生き残ることができます。

なぜ、線虫が「モデル生物」としてが選ばれたのか?~線虫の夜明け~

    なぜ、線虫C. elegansは、モデル生物としてよく用いられるようになったのでしょうか?そのきっかけは、1950~60年代までに遡ります、、、。

 

 この頃、生物の遺伝情報を担う物質がDNAであること、そして、その構造が二重らせんであることが明らかにされ、分子レベルで生命現象を解き明かす「分子生物学」という分野が誕生します(DNAについての概要や研究の歴史に関しては、こちらの過去のガイド(『DNAって何だろう?』)をご覧ください)【図7】

【図7】DNAにある遺伝情報が伝わる一連の流れ (セントラルドグマ)

      まず、DNAにある遺伝情報がメッセンジャーRNA(mRNA)に写し取られる(転写される)。そして、mRNAを基に、タンパク質が合成される(翻訳される)。ほとんどの遺伝子は、この一連の流れを経て機能を発する(遺伝子が「発現する」という言い方をする)。

 

 

 

 当時、分子生物学に従事していたシドニー・ブレナー(*1)が、生命科学の(ワクワクするような)次の問題として、生物の発生神経の構造と機能であると考え、それらの謎に迫るために適切なモデル生物を探しました。ブレナーは、様々な生物を検討した結果、飼育が簡単、細胞数が比較的少ないなどの理由から、線虫C. elegansをモデルとなる生物として提唱しました[2]

 

【動画2】 Sydney Brenner, Nobel Prize in Physiology or Medicine, 2002: Nobel Lecture

 シドニー・ブレナーが2002年にノーベル医学・生理学賞を受賞した(後述)時のレクチャー動画。


  

注釈

(*1) ブレナーは、mRNA【図7】発見した人物としても知られている。

参考論文

[2] Brenner S. (1974). The genetics of Caenorhabditis elegans. Genetics77(1), 71–94.

線虫のここがスゴイ!!~モデル生物としての利点~

線虫の主な利点としては、大きく3つあります。

 まず1つ目は、線虫の扱いが簡単であることです。研究室では、【図4, 5】のように、エサ入りの寒天プレートの上に数日置くだけで多くの個体を増やすことができるので、手間が少なく飼育することができます。実際、【図8】のように1つのタッパーの中にプレートを入れて、保温器(インキュベーター)の中で、飼育しています。さらに、線虫は冷凍保存ができ一度に多くの株を管理する手間を省けます【図9】

【図8】線虫を飼育している様子

 複数の線虫の株をタッパーに入れて、保管している。1つ1つのプレートのサイズは小さい(直径約6cm)ので、多くの種類の線虫株をスペースを取らずに飼育することができる。

(*諸事情で、画像を一部加工しています)

 

 

図9】線虫の冷凍保存している液体窒素のタンク

 液体窒素のタンク(-196度)の中に、線虫の株を冷凍保存している。この中には、世界にここにしかない重要な線虫株が多数保管されている。冷凍させることで、線虫を半永久的に保存することができる。実験で必要な時には、このタンクから取り出し、解凍して用いる。ちなみに、研究室の某先輩から、約20年前に冷凍保存された虫でも、無事に起こして使うことができたという話を聞いたことがある。

 

  2つ目に、線虫の単純な体の構造です。線虫の細胞数は、雌雄同体だと959個、雄は1031個という数少ない細胞から成っており、細胞数・細胞の位置が個体間で差がほとんどないです。それに加えて、体が透明であるという特徴も相まって、顕微鏡を通じて、生きたまま体内の構造や細胞の動きなどを観察できるため、発生の研究モデルとして重宝されています(その研究例として、『アポトーシス (プログラム細胞死)』をご覧ください)。さらに、線虫の神経系は、わずか302個の神経細胞から成っており、神経細胞同士のつながり(神経回路)が電子顕微鏡レベルですべて明らかになっています。それらを活かして、多くの研究室で、神経系の機能について細胞レベルでより詳しく解析が行われています(詳しくは、『神経系の構造と機能』をご覧ください。)。

  3つ目に、線虫のゲノム(生物の全遺伝情報)です。線虫のゲノムDNAの配列は、1998年に多細胞生物としては初めて、全てが解読されました。その中で、線虫で見られる遺伝子(*2)の約40%は、ヒトでも共通の働きを持つ遺伝子である(このことを、遺伝子の機能が「保存されている」という言い方をする)ことが明らかになっています[3]。さらに、遺伝子の機能の解析(遺伝学的な解析)が行いやすいため、線虫という単純で扱いやすい生物を用いることで、ヒトなどの複雑な生物での現象を、遺伝子レベルで詳細に解明することにつながります。(後のページでも述べますが、実際に、線虫を用いた解析によって、様々な現象(アポトーシス寿命RNAとして働く遺伝子 など)が遺伝子レベルで解明されています。

注釈

(*2): 遺伝子の数は、線虫では約20200個に対して、ヒトは約20000個と、線虫とヒトの間では数はあまり変わらない。このように、「生物の複雑さ」と「遺伝子の数」の間に相関関係がないことが知られている。このことを、「G値パラドックス」という(G値: 遺伝子(Gene)の数)。ちなみに、単細胞生物であるゾウリムシの遺伝子数は、約39600個とヒトよりも多い。

参考論文

[3] C. elegans Sequencing Consortium (1998). Genome sequence of the nematode C. elegans: a platform for investigating biology. Science (New  York, N.Y.)282(5396), 2012–2018. https://doi.org/10.1126/science.282.5396.2012

線虫C. elegansで行われた研究の数々とは?

それでは、線虫のこれらの性質を生かして、どのような研究が行われてきたのでしょうか?次のページから、その具体例の数々をご紹介していきます。気になるページからどうぞ!