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★線虫 C. elegans ~約1ミリのモデル生物で切り拓く生命科学~: マーカーとしてのGFP(緑色蛍光タンパク質)の応用

たった1ミリのモデル生物、線虫C. elegansを用いた研究について解説します。

このページの参考文献

GFP(緑色蛍光タンパク質) とは?

 GFP(Green Fluorescent Protein)は、青色の光を受けて緑色に光る蛍光タンパク質です。これは、下村脩氏がオワンクラゲという発光生物【図26】から見つけた色素です。現在では、このGFPは、主に、あるタンパク質が生物の体のどの位置にあるのかを知るためのラベルとして用いられています。つまり、タンパク質にGFPをつけて一緒に発現させると、GFPが光り【補足】、そのタンパク質が存在する場所がわかります【図27, 28】下村氏がこのGFPを発見した際は、現在のようにラベルとして用いることは想定されていませんでした。では、どのようにGFPがラベルとして広く用いられるようになったのでしょうか?それは、ある線虫研究者の発想から生まれたのです。

 

 

【図26】オワンクラゲ (https://www.shimadzu.co.jp/boomerang/20/09.html より引用)

 

【図27】 GFPを「ラベル」として利用する 

 調べたいタンパク質とGFPを融合させて、そのタンパク質の発現場所を調べることができる。

 

【図28】GFPを導入したマウス (https://www.kahaku.go.jp/userguide/hotnews/theme.php?id=0001286268353983&p=4 より引用) 耳と口の部分が緑色に光っている。

【補足】なぜGFPは光るのか?

  光には、波長によって持っているエネルギーが異なります【補足図1】。GFP(を含め蛍光タンパク質)はその光エネルギーを用いて蛍光を放出しています。

【補足図1】 光の波長とエネルギー (https://www.otsukael.jp/weblearn/chapter/learnid/87/page/2 より引用) 

波長が短いほど、波が持つエネルギーは高い。例えば、青色光と緑色光だったら、波長が短い青色光のほうが緑色光よりエネルギーが高い。

 

 

 

  具体的に、GFPの光る仕組みを簡単に説明します。青色の光(395 nm)を当てることで、GFP(厳密には、その中にある「発色団」と呼ばれる部分)でエネルギーを吸収します(励起状態(エネルギーが高い状態)になる)。その後、元のエネルギー状態(基底状態)に戻るときに、一部は熱エネルギーとして失われてしまうので、受けた青色の光を放出するのではなく、波長が少し長い(=青色の光よりエネルギーが少し小さい)緑色の光(509 nm)を放出します【補足図2】

  後で出てきますが、他の蛍光タンパク質も同じ原理で、例えば赤色蛍光タンパク質であれば励起光として緑色の光を用います。

 

 

【補足図2】 GFPが光る仕組み

  青色光から受けたエネルギーを吸収して、励起状態になる。元の安定した状態に戻るときに、青色光から受けたエネルギーを放出するが、一部は熱エネルギーとして失われるため、青色光よりエネルギーが低い緑色光を放つ。

 

 

線虫から広まったGFP(蛍光タンパク質)の応用

 ほとんどの遺伝子は、メッセンジャーRNAを経てタンパク質に翻訳され、生体内で機能を果たします(『線虫C. elegansとは?』の【図7】参照)。その機能を詳しく知るために、実際に生体内で働いている場所やタイミングを知ることは重要なことです。GFPが応用される以前は、抗体染色や化学色素を使って、特定のタンパク質が生体内のどこにあるのか、を探っていました。しかし、それらの方法では、生物を殺す処理を経なければならないので、特定のタンパク質の発現場所生きた状態で確認したり、時間経過とともにどのように変化していくのかを連続して観察することは不可能でした。

 

 そこで、GFPをマーカーとして用いて、生きた状態で遺伝子の働きを観察できないかと考えたのは、線虫の触覚に関する研究を行っていたマーティン・チャルフィーです[20]。チャルフィーは、たまたま参加していた発光生物に関するセミナーでGFPの存在を知り、自身の研究に応用できないかと思い始めたそうです。線虫の体は透明であるため、もしGFPを線虫の体内で発現させたら、簡単に観察することができます。その後、試行錯誤の末、実際に線虫の神経系でGFPを発現させ、観察するに成功しました。この業績は1994年に有名な科学雑誌Scienceに掲載されました [20, 21]【図29】

【図29】 線虫の神経系でGFP発現させた様子がScienceの表紙を飾った(参考論文[20] より引用)

 

 この研究が火付け役となり、線虫に限らず他の生物でもGFPが生体内でのマーカーとして、幅広く用いられるようになりました【図30】[20, 22] (実際に、私の研究でも大変お世話になっております。(笑))。さらに、GFPは緑色の蛍光タンパク質ですが、ロジャー・チェン(線虫の研究者ではない)によって赤や青、黄色などの複数の色の蛍光タンパク質が見つかり(図5)[22]、それらを活用して同時に複数のタンパク質や細胞を観察することができるようになりました【図31, 32】[22, 23]。

  これらの一連の「GFPの発見とその応用」の業績により、下村、チャルフィー、そしてチェンの3名は、2008年にノーベル化学賞を受賞しました。これで、線虫を用いた研究での受賞は、2002年の「アポトーシス」、2006年の「RNAi」に続いて3度目です。(わずか数年で複数回受賞しているので、線虫研究が与えた影響力が凄まじいことを思い知らされます、、、。)

 

【図30】GFPを発現させた生物の数々(https://www.pnas.org/content/106/25/10073 参考論文[20] より引用 )

 (左)上から、線虫、ショウジョウバエ、ウサギ(名前はアルバ) (中)上から、アブラナ、マウス、ゼブラフィッシュ (右)HeLa細胞(培養細胞の一つ)、ショウジョウバエの胚の細胞、シロイヌナズナの胚軸細胞、マウスの脳にあるプルキニエ細胞

 

【図31】様々な色の蛍光タンパク質 (参考論文[22]より引用) 

mGrape, tdTomato, mBananaなどと美味しそうな名前がついているものもあります。GFPはオワンクラゲ由来でしたが、蛍光タンパク質によって由来は異なります。例えば、赤色蛍光タンパク質のmCherryは、サンゴ由来です。

 

【図32】Brainbow -- 異なる蛍光タンパク質の組み合わせで識別されているマウスの脳の海馬の細胞 (https://www.cell.com/pictureshow/brainbow より引用, 研究は、参考論文[23]を参照)

3種類(主に、赤、青、緑, またはそれ以上)の蛍光タンパク質が細胞ごとで発現パターンが異なるので、それぞれの細胞を異なる色で標識し区別することができる (例: 赤・青・青→紫, 緑・赤・赤→黄色)。(マウスの)脳の細胞で、様々な色(=虹色??)の蛍光で標識しているので、"Brainbow(Brain + Rainbow)"と呼ばれている。異なる色で細胞をマークすることで、マウスなどの複雑な脳を持つ生物の神経回路が明らかになり、脳の機能の解明に役立つことが期待される。

 

【動画5】Martin Chalfie (Columbia University): Developing GFP as a Biological Marker

マーティン・チャルフィー博士によるGFPに関する講義。このHP(https://www.ibiology.org/cell-biology/developing-gfp/)には、スクリプトも見ることができます。

参考論文

[20] Chalfie, M. (2009). GFP: Lighting up life. Proceedings of the National Academy of Sciences, 106(25), 10073-10080. https://doi.org/10.1073/pnas.0904061106

[21] Chalfie, M., Tu, Y., Euskirchen, G., Ward, W., & Prasher, D. (1994). Green fluorescent protein as a marker for gene expression. Science, 263(5148), 802-805. https://doi.org/10.1126/science.8303295

[22] Zimmer, M. (2009). GFP: From jellyfish to the Nobel prize and beyond. Chemical Society Reviews, 38(10), 2823. https://doi.org/10.1039/b904023d

[23] Livet, J., Weissman, T. A., Kang, H., Draft, R. W., Lu, J., Bennis, R. A., Sanes, J. R., & Lichtman, J. W. (2007). Transgenic strategies for combinatorial expression of fluorescent proteins in the nervous system. Nature, 450(7166), 56-62. https://doi.org/10.1038/nature06293

 

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