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★手計算とRで学ぶ統計学: 2標本t検定 (対応あり)

「なぜ統計学が必要か」という問いをひもとき,実践を通じて読者の方と統計学の心理的距離を縮めるガイドです。

基本・2標本t検定 (対応あり)

ここでは,対応のある2標本\(t\)検定の流れを実際の値を使って確認してみましょう。このときは独立でない (≒同一の) 2群の平均値の差と帰無仮説における母平均0とを比較している (※1),と覚えましょう。

(データ概要)
「血圧を下げる効能がある」と宣伝しているお茶を1週間飲むテストに10名が参加しました。参加者全員のテスト前とテスト後の最高血圧を測定したところ,以下のようなデータが得られました。
\begin{array}{ccc}
  \hline
  ID & before & after\\
  \hline
  1   & 149   & 141\\
  \hline
  2   & 149   & 149\\
  \hline
  3   & 155   & 149\\
  \hline
  4  & 148   & 153\\
  \hline
  5  & 147   & 147\\
  \hline
  6   & 151   & 148\\
  \hline
  7  & 154   & 144\\
  \hline
  8   & 148   & 157\\
  \hline
  9   & 155   & 154\\
  \hline
  10   & 151   & 148\\
  \hline
\end{array}

①仮説を立てる
今回は
帰無仮説\(H_{0}\): お茶を飲む前と飲んだ後で最高血圧に差がない (= 差分の母平均は0と等しい)
対立仮説\(H_{1}\): お茶を飲んだ後の最高血圧はお茶を飲む前より低い (= 差分の母平均は0より大きい)
という仮説を立てます。
差の大小に着目しているので,今回は片側検定を採用します。

 

②検定統計量を選択する
今回の事例では母分散 (母集団の分散) が不明なので,テスト前とテスト後の血圧の差分をとった値の不偏分散\(u_{diff}^2\))を用いる検定統計量\(t\) を使用します。また,帰無仮説の棄却 / 保留の判断には自由度\(n - 1 = 10 -1 = 9\) の \(\it t\) 分布を使用します。
このとき,\(b_{i}\) は\(i\) 番目の参加者におけるテスト前の血圧,\(a_{i}\) は\(i\) 番目の参加者におけるテスト後の血圧,\(u_{diff}^2\)) は差分の不偏分散を表すと定義します。

 

③有意水準\(\alpha\) (第一種の過誤が生じることをどこまで許容するか) を定める
\(\alpha\) = 0.05と定めることが一般的です。研究の目的や分野によっては異なる有意水準 (\(\alpha\) = 0.1,\(\alpha\) = 0.01など) を定めることもあります。
今回は\(\alpha\) = 0.05とします。

 

④適切な検定統計量を求める
○テスト前後の血圧の差分・差分の平均
以下の表のようにして,テスト前後の血圧の差分を求めます。
このとき,差分の平均は

\begin{align}
\overline{x_{diff}} &= \frac{1}{n}\sum_{i=1}^n \left(b_{i} - a_{i} \right) \\[14pt]
&= \frac{1}{10}\left\{(b_{1} - a_{1})\ + (b_{2} - a_{2})\  + (b_{3} - a_{3})\ +... +(b_{10} - a_{10})\  \right\} \\[14pt]
&= \frac{1}{10} \left\{(149 - 141) + (149 - 149) + (155 - 149) + ... + (151 - 148) \right) \} \\[14pt]
&= 1.7 
\end{align}

と求められます。

○不偏分散
次に,差分の不偏分散 \(u_{diff}^2\) を求めます。
今回の場合は,\(n = 10\) ,\(\overline{x_{diff}} = 1.7\)です。また,i番目の差分データを\(x_{diff (i)} \) と表記します。

したがって,テスト前後の血圧の差の不偏分散は

\begin{align}
u_{diff}^2 &= \frac{1}{10 -1} \sum_{i = 1}^n \left(x_{diff (i)} - \overline {x_{diff}} \right)^2 \\[14pt]
&=\frac{1}{10-1} \left\{(x_{diff (1)} - \overline{x_{diff}})^2 + (x_{diff (2)} - \overline{x_{diff}})^2 + (x_{diff (3)} - \overline{x_{diff}})^2  + ... + (x_{diff (10)} - \overline{x_{diff}})^2 \right\} \\[14pt]
&=\frac{1}{10-1} \left\{(8 - 1.7)^2 + (0 - 1.7)^2 + (6 - 1.7)^2  + ... + (3 - 1.7)^2 \right\} \\[14pt]
&= 32.9 
\end{align}

と求められます。

○\( t \) 値
不偏分散が求められたところで,いよいよ\( t \) 値を求めます。
対応のある2標本\( t \) 検定における \( t \) 値は以下の公式で求められます。
\[t = \frac{\overline{x_{diff}} - \mu}{\sqrt{\frac{\it u_{diff}^2}{n}}} \]
帰無仮説は「テスト前後で血圧に差はない」なので,\(\mu = 0 \) とおき,値を代入すると 

\begin{align}
t = \frac{1.7 - 0} {\sqrt {\frac{32.9}{10}} } \\[14pt]
\fallingdotseq 0.937 
\end{align}

と,\( t \) 値が求められました。

⑤データの自由度と有意水準をもとに棄却域 (データから求めた\( t\)値がこの中に含まれれば帰無仮説を棄却する) を定める
\( t\)分布表の自由度9の行を見ると,\(t_{0.05}(9) = 1.833 \) であることがわかります。よって,求めた\(t\) 値が\(1.833 <  x < \infty \) の範囲に含まれていれば帰無仮説を棄却,含まれていなければ帰無仮説についての判断を保留することにします。

⑥ \(t\) 値と棄却域を比較し,帰無仮説を棄却するかどうか決める (手計算の場合のみ)
データから求めた\(t\) 値はおよそ0.937であり,棄却域の外にあります。
よって,今回は帰無仮説についての判断を保留し,「お茶を飲む前と飲んだ後で最高血圧に統計的に有意な差があるとはいえない」と結論づけます。

(※1) ここにある通り,対応のある\(t\)検定では平均値の差と0を比較します。そのため,1標本\(t\)検定と計算過程が近いです。