近年よくニュースで見る生理関連のワードと言えば、「生理の貧困」と「フェムテック」です。
「生理の貧困」とは、内閣府によると、「経済的な理由」で生理用品を購入できない女性や女の子がいるという状態を指します。「生理の貧困」は、新型コロナウイルスの蔓延に伴って議題に上ってきました。シングルファザーの家庭で生理用品を買えない女の子や、母親から「生理は隠すべきものである」と教育され、ナプキンを替えるためにトイレに行けない女性、また生理用品の単価が高くて文字通り貧困で買えない人もいます20。
フェムテック(Femtech)はFemaleとTechnologyを合わせた造語です。フィンテック等の仲間ですね。フェムテックは、女性のライフステージにおいてやってくる課題を解決できるサービスや製品のことです。妊娠や出産も含みますが、ここでは生理にフォーカスを当てていきましょう。
「生理の貧困」によって、生理用の衛生用品、教育、衛生施設、廃棄方法に十分なアクセスを持たない状態にある人は、2023年時点で世界の5億人と言われています。日本では生理時の不適切な対処や女性の機会損失によって年間6828億円の損害26が発生していると言われています。
そういった生理の貧困の解決のため、世界がどう対処しているのか見てみましょう。
イギリスでは、2020年から公立の学校で生理用品の無料配布が行われ、2021年からは生理用品の付加価値税が撤廃されました。
フランスやニュージーランドでも学校で生理用品の無料配布を行っています。
スペインでは、2022年に生理休暇の法律が成立しました。これはヨーロッパで初の取り組みです。
因みに日本では、労働基準法第68条で「生理休暇」の取得が定められています。いわく、「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない」。同条については、生理と嘘をつき、不正に休暇をとる女性が出てきたり、逆に会社側が対応しなかったりと様々な問題があります。
また、最近は日本のNPOや一般社団法人、または有志による生理用品の無料配布援助活動も増えてきています。しかし、学校のトイレに生理用品を設置することを「まだ生理が始まっていない子を傷つけるから」といった理由で拒絶するなど、消極的な地方公共団体もあります。
メキシコでは、女性団体の活動が実を結び、イギリスと同じく生理用品に対する付加価値税が2022年から撤廃されることになりました。この措置が実施されるのは、中南米では2018年に実施したコロンビアに次いで2か国目です。
労働基準法第68条により、使用者(雇い主)は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときには、その女性労働者を生理日に就業させてはならないと決まっています。実はこの制度は、あまり欧米諸国には見られません。
生理休暇制度については、1980年以来廃止が強く主張されてきました。月経困難症は治療可能だということ、制度の濫用が多い(生理でないのに生理休暇をとるなど)ことがその主張論拠です。しかし、廃止に反対する声も強く、1987年の改正を経ても制度は基本的に維持されました。
生理日に著しく就業が困難なことを客観的に証明することは容易ではありませんので、最終的には労働者本人の請求を信じる他ありません。
生理休暇中の賃金については、法律には規定がなく、労働協約(労働組合と使用者の間で基本的関係について結ぶ協定)、就業規則、労働契約などの定めによることになります。裁判例では、使用者(雇い主)が就業規則の改定により、生理休暇時の賃金を100%から68%に減額した措置を合理的と認めたものがあります(タケダシステム事件・最二小判昭58.11.25労判418号21頁、東京高裁(差戻審)昭62.2.26労民集38巻1号84頁)。しかし、使用者(雇い主)が生理休暇中に単に賃金を不払いにするにとどまらず、不利益な取り扱いをすることは、権利行使を理由とする不利益取扱いの問題となります。
他の判例についても見ていきたいところですが、法学部以外の読者の方も多いと思いますので、割愛いたします。
実際に生理休暇をとる女性は、全体的に見ても決して多くありません。2022年時点では、8割以上の女性がとったことがないと回答しました27。友人等ならともかく、上司に言わなければならないですから、相当勇気がいるし、気を遣うと思います。
また、個人的には「著しく」というボーダーが気になりますね。人によって感覚が違うので、「著しい」不具合に耐えられえる人もいれば、おなかが痛いということで仕事にならない人もいると思います。かといって症状を法律の中に挙げつらえば、「それに当てはまらないけれども我慢ができない」人も出てくるでしょう。「その他の症状」といったバスケット条項を最後に設けるという手もあるのではないかと思われますが、こういったボーダーを体調面や主観面で引くことはとても難しいのです。
生理には欠かせないナプキン企業と、「生理」という社会問題に切り込んだフェムテック企業をご紹介しましょう。
①OiTr株式会社の場合:女性の方であれば、博多や天神のトイレでナプキンの自販機のようなものをご覧になったことがあるかもしれません。OiTr株式会社は、女性用トイレの個室で、自社のアプリケーションをダウンロードすればナプキンを無料で受け取ることができるサービスを、実証実験を経て実現させました。2021年に行われた実証実験では、ユーザーの満足率は94%、今後も使いたいと答えた人は100%に上りました17。大体の日付は分かっていても、いざとなると実際にいつ来るか分からない生理に対応することができます。
②花王の場合:花王は、「ロリエ」というシリーズで生理用ナプキンを展開しています。ロリエは、2022年春から「職場のロリエ」という新プロジェクトを展開しました。職場でのナプキン装備化を通し、安心して働ける職場づくりを目指しています。また、一般的に生理用品の広告は「最終的に自社のナプキンを使ってスッキリ」のようなハッピーエンドで終わるものが多い印象ですが、ロリエは「CMのようにハッピーには過ごせない」との意見を取り入れ、生理を飾らず描くことを方針としました。現在CMに起用されてる二階堂ふみさんは、CMの中で「生理の時って、いつも気にならないことがきになったり…」と生理の時の精神状態を赤裸々に語っています14。
③ユニ・チャームの場合:ユニ・チャームは「ソフィ」を代表としたナプキン、ショーツ型ナプキン、ピース(トイレに流せる生理用品)、タンポン、月経カップ(膣内に挿入して子宮膣部に装着したカップに経血をためる。医療用シリコンで作られており、洗って繰り返し使える)、ショーツ、おりものシート(子宮頚部、子宮内膜、膣から出る酸性の分泌物を吸収する)、ケア用品と幅広く展開しています。また、#NoBagForMeプロジェクトという企業や地方自治体、教育機関に向けた研修プログラムの一環として、生理に関する意識向上と職場における相互理解を促進する「みんなの生理研修」を実施しています。新たな試みとして、自社で「ソフィ」「ソフィガール」という生理管理アプリを作っています10。
④大王製紙の場合:大王製紙は、「エリス」というナプキンを製造しています。また、学生のために「奨学ナプキンプロジェクト」で、選ばれた2000名に1年分のエリスを無償で提供しています13。
⑤fermata社の場合:世界初のフェムテック専門オンラインストア「fermata store」の運営を行い、フェムテック関連商品の開発、コンサルティング事業も行っています。吸水ショーツや搾乳サポートブラ、月経カップなどを販売しています2。
上記にある企業以外にも生理に関わる企業やNPO法人、自治体などたくさんありますので、ぜひ探してみてください♡