ここに、一本のペンがあります。
かつてぺんてるが発売していた、XSというシャープペンシルです。
いかにも近未来的なその姿。
小倉の文房具屋さんで目にして以来、小学生の私は夢中になりました。
しかし、定価1000円のシャープペンは、小学生には高級品です。
これは親に頼むしかないと、ことあるごとにXSの必要性を訴え、XSが手に入った場合にいかに勉強に力を入れるか、必死でアピールしました。
そしてあるクリスマスの朝、私の枕元にはこのペンが置かれていました。
以来、高校受験・大学受験と続いていく勉強生活の中で、このペンは私の「相棒」となっていったのです。
そして、ある日。
高校生活の終わりに、お世話になった文房具屋さんを巡っていた私は、衝撃の事実に気が付きます。
XSがない。
残念ながらこのペンは、私の手元にやってきた少し後に、廃盤になっていたのです。
考えてみると、変わったペンです。
ゴムグリップはわずか6つ。しかも2箇所に集中しています。
かっこいいのですが、少し持つ部分がずれると、滑り止めの機能を果たしません。
「ちゃんと」滑り止めがついている他の製品に比べると、機能面ではいささか劣るかも…。
……でも、それでもなお。
私にとってこのペンは、XSは、「忘れられない1本」です。
半透明の軸。
銀色で統一された金属パーツ。
斜めに入れられたゴムグリップ。
その全てが、「かっこいい」に振り向けられています。
ある種の割り切りを感じるこのペンからは、開発者の楽しそうな顔が浮かんできます。
「銀色かっこいい!」
「斜めのゴムグリップかっこいい!」
「ロケットみたいなキャップかっこいい!」
そんな開発者の熱い思いが、一本のシャープペンシルに宿り、その思いにやられた小学生がいる。
文房具という小宇宙が、思いを媒介したのです。
さて本稿では、様々な文房具をご紹介してきました。
8900、9000、uni、木物語、クルトガ、デルガード、オレンズ。
発売された年代もバラバラ、機能もバラバラな文房具たちですが、共通している特徴があります。
それは、「熱い思い」です。
「俺たちだけの鉛筆を!」
「環境に思いを馳せられる鉛筆を!」
「0.2ミリが普通に使えるシャーペンを!」
熱い思いの宿った文房具が、生協で、コンビニで、スーパーで、お互いに切磋琢磨している。
今この時にも行われている「戦い」に思いを馳せる時、私は、文房具コーナーに熱気を感じるのです。
敗れてしまうこともあるかもしれない。
突然に姿を消すことも、あるかもしれない。
それでもなお、誰かに思いが伝わると信じて、文房具は今日も戦い続けるのです。
本文で私は、XSを「忘れられない一本」と表現しましたが、これには元ネタがあります。
ぺんてるの社員さんたちが投稿しておられるnote、「ぺんてる シャープペン研究部」(現在は休部中)の連載、「#忘れられない一本」です。
そこに綴られているのは、シャープペンシルとの思い出、反発と和解、喜びと悲しみ。
一人ひとりのドラマが、シャープペンシルというレンズを通して描き出されています。
どの記事も大好きで、何度も何度も読み返しているのですが、その中で一つだけお勧めするとすれば、「サイドノック式シャープペンが好きで入社したら廃盤になった話」を選びます。
→ 「サイドノック式シャープペンが好きで入社したら廃盤になった話」ぺんてるシャープペン研究部 note(2020年7月17日)
日々の創作を、手元で支えてくれているシャープペン。
最近使ってないという方も、絶賛酷使中の方も、是非ご覧ください!
本稿執筆にあたって参照した書籍を、登場順に改めてご紹介します。
どれも九大図書館でご覧いただけますので、是非ご一読ください!