まずは、一番イメージしやすい「機械通訳」です。海外旅行や外国人に話しかけられた時に、スマホの通訳アプリを使ってコミュニケーションをとったことがある人も多いと思います。
医療現場でも、医療に特化した翻訳機の活用が進んでいます。マイナーな言語にも対応できるもの、AIによる通訳で即時性のあるもの、会話を聞き取ってテキスト化する機能があるものなど、臨床現場に即した活用ができる翻訳機が登場しています。
ただし、機械が行うためニュアンスや場の流れにあっていない翻訳がされている可能性があります。時には完全な誤訳をされてしまうこともあります。伝えたかったニュアンスで伝わっていなかったり、誤った翻訳がされてしまうと、医療トラブルや医療事故につながりかねない危険性があります。しかし、その誤りに医療従事者が気付くことのできるタイミングというのはなかなかないため、どこまで信頼できるのかという課題は必ずついて回ります。
誤訳やニュアンスの違いに気づく一つの手段として、「逆翻訳」があります。例えば、伝えたいことを日本語からベトナム語に翻訳したときに、翻訳されたベトナム語の文章をそのままもう一度翻訳機にかけて、日本語の文章に直すという方法です。最初の日本語の文章と逆翻訳後の日本語の文章を比べると意外とニュアンスが違うことも多いので、医療現場に限らず、日常でも翻訳アプリや翻訳サイトを利用するときにやってみてください。
もし、逆翻訳の結果と翻訳前の文章の間にずれが生じていた場合どうすればいいのでしょうか。解決策の一つに「日本語の文章をやさしい日本語にして翻訳をかけること」が挙げられます。例えば、交通障害によって電車やバスに遅延が生じているときに「ダイヤが乱れています」とweb翻訳で英語に言い換えようとすると「The diamonds is out of order.」となりました。逆翻訳をすると「ダイヤモンドは故障しています」となります。これを、「電車(バス)は遅れています」とやさしい日本語にしてから翻訳にかけると「The train (bus) is late.」となり、逆翻訳も「電車(バス)が遅れています」と正しく翻訳できました。こんなにも違ってしまうのですね…。
通訳者という職業は皆さんなんとなくご存じだと思いますが、「医療通訳士」という職業はなかなか耳にしたことがないと思います。医療通訳士とは、医療に関する専門知識や医療制度についての理解を持つ通訳者のことです。近年、国際臨床医学会(ICM)などの認定試験によって、医療現場における通訳スキルの均一化が図られています。
医療通訳士は、英語・中国語・ベトナム語などの言語を「人間ドックや慢性疾患、中軽度疾病などに通訳対応可能なレベル(医療通訳2級)」から「医療全般かつがん治療などの重度疾病に通訳対応可能なレベル(医療通訳1級)」まで通訳することができるので、医師と外国人患者との問診の場面などで活躍しています。「通訳」というと、外国人側が用意する必要があったり、ボランティアで活動しているというイメージを持つかもしれませんが、医療通訳士はれっきとした職業であり、最近では病院や自治体が専属の通訳士を雇用しているケースもあります。
通訳士を介するメリットとしては、通訳士自身が医療知識のフィルターになることが挙げられます。
医療通訳士は医療スタッフではないため、時には医師の説明の中で、通訳士がわからない専門用語もあります。通訳士がわからないものは訳すことができないため、医師に聞き返したり、より詳しい説明をその場で求めることができます。通訳士がわからない専門用語は、患者もわからない可能性が高いので、外国人患者の方の「わからないけど聞けなかった」を減らすことができます。
デメリットとしては、問診で患者に説明する時間とそれを通訳する時間が必要となり、通常の2倍時間がかかると懸念されていることが挙げられます。しかし、実際に医療通訳士を利用した医療従事者からは、通訳がスムーズに進むことでむしろ時間短縮につながるという声もあるそうなので、今後より広い活用が期待されています。
「医療コーディネータ」とは、外国人患者と病院、外国人患者と通訳者の間をサポートする医療従事者のことです。その病院で働く看護師や事務員、ソーシャルワーカーなどがこの役割を担うことが多く、外国語が話せなくてもなることができます。外国人患者の受け入れを盛んにしている病院などで整備されていることが多い役職です。
〈主な仕事〉
・外国人患者が来院したときの通訳者の手配
・国籍や個人情報の聞き取り、医療費の支払い確認と徴収
→パスポートや在留カードなどの確認や医療費に関する確認を取ることで、医療費の未収金トラブルを防ぎます。
・通訳者に対して治療方法や病状に関わる医療知識の提供
→手術を控えた外国人患者の通訳を担当する通訳者に対して、事前に手術の流れなどの専門知識を提供することなどが挙げられます。これにより、通訳者も専門知識を得ることができ、より医療従事者のニュアンスに近い翻訳につながると期待されています。
・大使館、旅行会社、保険会社、患者家族などとの連絡調整
→医療費の未回収を防ぐため、医療保険金の受け取りに必要な書類の作成などに携わることもあります。