さて、前ページでは私たちの体や他の生物体を構成する脂質を紹介してきました。これらの脂質の多くは体の中で合成するだけでは不十分で、食物から摂取する必要があります。ではどういった脂質を意識して摂取していけば良いのか、あるいは摂取を避けた方が良いのか、簡単に解説してきたいと思います。
特に植物性脂質と動物性脂質にはやはりそれなりに違いがあり、バランスよく摂取することが重要です。
今回特に意識して欲しいのは脂肪酸の種類です。私たちの身体を構成する脂肪酸は大きく3つのグループに分けることができます。それがオメガ9脂肪酸、オメガ6脂肪酸、そしてオメガ3脂肪酸です。オメガ3脂肪酸という言葉は聞いたことがあるかもしれません。DHAやEPAが含まれているグループです。似て非なるこの3グループを頭に入れて動物性・植物性脂質を理解していきましょう。
(ニッスイ:サラサラ生活向上委員会 https://www.sara2.jp/epa/)
これまで紹介してきた脂肪酸の中には実は二つの名前を持つものがあります。昔から生活の中で使われてきた脂肪酸はその名前が慣用名として用いられています。例えば、オレイン酸はオリーブに豊富に含まれていることが由来になっています。一方、それまでの生活に馴染みがなかった脂肪酸にはIUPAC名(International Union of Pure and Applied Chemistry)が与えられています。これはギリシャ数字(1=mono, 2=di, 3=tetra)に基づいて炭素数と二重結合数を並べて表されます。下記の主な脂肪酸一覧表を見てみましょう。
表:脂肪酸一覧(IUPAC名+記号表記)。括弧で括られているのは慣用名。本来は不飽和結合の位置が入るため、IUPAC名はさらに長い。
炭素数 | 飽和脂肪酸 | n-9系(オメガ9)脂肪酸 | n-6系(オメガ6)脂肪酸 | n-3系(オメガ3)脂肪酸 |
16 |
ヘキサデカン酸 (パルミチン酸) 16:0 |
ヘキサデセン酸 (パルミトレイン酸) 16:1n-9 |
||
18 |
オクタデカン酸 (ステアリン酸) 18:0 |
オクタデセン酸 (オレイン酸) 18:1n-9 |
オクタデカジエン酸 (リノール酸) 18:2n-6 オクタデカトリエン酸 (γリノレン酸) 18:3n-6 |
オクタデカトリエン酸 (αリノレン酸) 18:3n-3 オクタデカテトラエン酸 (ステリアリドン酸) 18:4n-3 |
20 |
エイコサン酸 (アラキジン酸) 20:0 |
エイコセン酸 20:1n-9
エイコサトリエン酸 (ミード酸) 20:3n-9 |
エイコサトリエン酸 (ジホモγリノレン酸) 20:3n-6 エイコサテトラエン酸 (アラキドン酸) 20:4n-6 |
エイコサテトラエン酸 20:4n-3
エイコサペンタエン酸 (EPA) 20:5n-3 |
22 |
ドコサン酸 (ベヘン酸) 22:0 |
ドコセン酸 (エルカ酸) 22:1n-9
|
ドコサテトラエン酸 (アドレン酸) 22:4n-6 ドコサペンタエン酸 (オズボンド酸) 22:5n-6 |
ドコサペンタエン酸 (イワシ酸) 22:5n-3 ドコサヘキサエン酸 (DHA) 22:6n-3 |
24 |
テトラコサン酸 (リグノセリン酸) 24:0 |
テトラコセン酸 (ネルボン酸) 24:1n-9 |
テトラコサヘキサエン酸 (ニシン酸) 24:6n-3 |
もちろんこれはほんの一部です。私たちが持つ長い脂肪酸は炭素数36まで伸びますし、植物や動物の中にはn-4系やn-5系の不思議な脂肪酸を作るものもいます。覚える必要はありません、それは研究者くらいです。しかし、食品表示で脂肪酸名を見たときにそれがオメガ3なのかオメガ6なのか、どのくらいの長さか、なんとなくイメージできると調べることなく商品を選ぶことができると思いますよ。また、オメガ3脂肪酸にはDHAやEPA以外にもイワシ酸やニシン酸が見えますね。やはりこれらの脂肪酸も青魚に多いということです。興味深い由来だと思いませんか?
オメガ(ω)またはnマイナス(n-)は二重結合の位置を示しています。詳しくは「脂肪酸メチル末端側の炭素(C)から数えて最初に二重結合が現れる炭素の位置」です。下図をご覧ください。
例えば、オレイン酸はメチル末端(CH3-)から数えて9番目の炭素に二重結合がありますね。そのためオレイン酸はオメガ9脂肪酸の仲間ということになります。同様にアラキドン酸はメチル末端から数えて6番目の炭素に、DHAは3番目の炭素に二重結合を持つため、それぞれオメガ6脂肪酸、オメガ3脂肪酸に属します。ちなみに、カルボキシル末端(-COOH)から炭素を数える場合はΔ(デルタ)という記号を使います。普段の生活でこの知識が役に立つことは少ないですが、雑学程度に覚えてみると面白いのではないでしょうか。
バイオジェット燃料の生産を目指して
化石燃料に頼らない燃料生産は地球温暖化を防ぐための最も重要な鍵となってきます。自動車は世界規模で電気自動車(EV)への転換が進められていますが、重い機体で長時間飛行する航空機はそうはいきません。では持続可能な航空機用のジェット燃料をどのように生み出したら良いのでしょうか。実は、ユーグレナ社が微細藻類であるユーグレナ(和名:ミドリムシ)と使用済み食用油を原料として製造したバイオ燃料はジェット燃料としての基準をクリアしており、2021年6月に初フライトを成功させています。ユーグレナだけでなく他の生物由来の油脂での製造も計画されており、カーボンニュートラルな社会の実現は少しずつ近づいているようです。
参考資料
ユーグレナ社ニュースリリース(2021.06.29)https://www.euglena.jp/news/20210629-1/
NEDO:バイオジェット燃料生産技術開発事業 www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100127.html