「貧血」は日常会話でも良く出てくる症状のひとつですよね!笑
じつは血液の病気としてしっかりと定義されています。
症状:動悸、息切れ、疲労感、倦怠感、微熱、頭重感など
【貧血の定義】
貧血は、一般的に赤血球、Hb、Htのうちの1種類以上の値が基準値以下を示す状態のことを言います。
WHOでは以下のように定義されています。
・幼児(6ヶ月〜6歳)…Hb値が11 g/dL未満。Ht値が33 %未満。
・小児(6〜14歳) …Hb値が12 g/dL未満。Ht値が36 %未満。
・成人 …男性:Hb値が13 g/dL未満。Ht値が39 %未満。
女性:Hb値が12 g/dL未満。Ht値が36 %未満。
・妊婦 …Hb値が11 g/dL未満。Ht値が33 %未満。
【貧血の原因・分類】
貧血が起こる原因には
「赤血球の産生が低下する」
…幹細胞の減少/DNA合成障害/Hb合成障害 など
「喪失や破壊が亢進する」…出血/溶血 など
の大きく2つがあります。
この原因に加えて、赤血球指数と呼ばれる下の2つの値を使って、
貧血を3種類に分類することができます!
● MCV(平均赤血球容積) [ fl ]=ヘマトクリット(%) / 赤血球数(10^6/μL) ×10
…赤血球1個の平均容積。(※基準値:81~100 fl)
基準範囲内にあれば正球性、低ければ小球性(←小さい赤血球)
高ければ大球性(←大きい赤血球)と呼びます。
● MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)
[%]=ヘモグロビン(g/dL) / ヘマトクリット(%) ×100
…赤血球1個に含まれるHbの濃度を w/v%で表したもの
(※基準値:31~35%)
基準範囲内にあれば正色素性、
低ければ低色素性(←薄い赤血球)と呼びます。
~~3種類の貧血~~
●大球性正色素性貧血
…DNA合成障害。巨赤芽球性貧血。MCV 101 fl以上・MCHCは基準値の範囲内。
(葉酸欠乏症、悪性貧血 など)
●正球性正色素性貧血
…MCV・MCHCは基準値の範囲内。
(急性出血、溶血性貧血、再生不良性貧血 など)
●小球性低色素性貧血
…Hb合成障害。MCV 80 fl以下・MCHC 30%以下。
(鉄欠乏性貧血、サラセミア、鉄芽球性貧血 など)
ここでは「大球性正色素性貧血」に分類される貧血を紹介します!
<巨赤芽性貧血>
赤血球のDNAの合成障害によって、大きくて壊れやすい巨赤芽球の出現を伴う貧血です。DNA合成障害にはいくつかの原因があります。
●ビタミンB12欠乏
ビタミンB12は、回腸から吸収され肝臓に2~5 mg貯蔵されていて、1日最低1 μg必要と言われています。
DNA合成の際に補酵素として働くため、欠乏するとDNA合成がうまくいきません。
欠乏は吸収不良によるものが多く、
・ビタミンB12の吸収に必要な胃から分泌される内因子が欠乏する=悪性貧血
、胃の全摘出
・吸収部位である小腸の疾患
・寄生虫や細菌に奪われてしまう。
などが考えられます。
●葉酸欠乏
葉酸は、十二指腸・空腸から吸収され肝臓に50 mg貯蔵されていて、1日最低50 μg必要と言われています。
葉酸も核DNAの合成に必要な補酵素として働きます。
欠乏の原因としては、
・摂取不足
・吸収不良症候群などによる空腸からの吸収不良
・妊娠などによる需要増大
などが考えられます。
また白血病や癌の治療に使われる薬剤の投与によって葉酸をうまく使うことができなくなることもあります。
ここでは「小球性低色素性貧血」について説明していきます!
小球性低色素性貧血は、赤血球の主な構成成分であるヘモグロビンの合成がうまくいかないために起こる貧血です。
------鉄不足によるもの------------------------------------------------
●鉄欠乏性貧血
体内の鉄分のうち、蓄えられている鉄分(貯蔵鉄)が不足し、ヘモグロビン合成に足りなくなるために起こります。
鉄が不足する原因は主に以下の3つです。
・鉄摂取量の低下(摂取不足 or 吸収異常)
・鉄需要の増加(成長期や妊娠時など)
・鉄排泄の増加(出血など)
鉄欠乏性貧血は、圧倒的に女性に多く、特に思春期や中年に多いそうです。
------ヘム合成障害よるもの-----------------------------------------------
●鉄芽球性貧血
CC 表示-継承 3.0 / File:Sideroblast.png / Wikipedia
鉄芽球性貧血では、写真のように核の周りに鉄の顆粒が環状に配列している赤血球が出現します(※青色に染色されていますが、明るい水色の粒が鉄顆粒です)
原因には、先天性のもの・後天性なものがあり、後天性のものは骨髄異形成症候群の一部にも含まれます。
------グロビン合成障害よるもの-----------------------------------------------
●サラセミア
グロビンの合成がうまくいかない先天的な病気です。グロビンのポリペプチド鎖には4種類(α、β、δ、γ)あり、いずれかの合成がうまくできません。
αサラセミア…α鎖の合成抑制(16番染色体に異常)
βサラセミア…β鎖の合成抑制(11番染色体に異常)
↑標的赤血球とよばれる赤血球が出現します。
ここでは「正球性正色素性貧血」に分類される貧血を紹介していきます。
<1. 溶血性貧血>
赤血球の破壊の亢進(赤血球の寿命の短縮)によって起こる貧血のことです。
溶血の原因によっていくつかに分類されます。
・先天性…赤血球膜の異常/赤血球酵素の異常/ヘモグロビン異常 など
・後天性…抗体によるもの/赤血球膜の異常/血管・血流の障害/脾機能亢進 など
主な所見として、貧血はもちろん
・間接ビリルビン増加による過ビリルビン血症
…ビリルビンとは赤血球が破壊されたときにできる黄色の色素で、
血管を通って肝臓に運ばれ処理されます。
処理される前を間接ビリルビン、処理された後を直接ビリルビンといいます。
・網赤血球の増加(3%以上)
などがあります。
この溶血性貧血に分類される貧血をさらに紹介していきます!
-------膜の異常------------------------------------------------
●遺伝性球状赤血球症
赤血球の膜に先天的な異常があるために、ナトリウムイオン(Na+)が入り込みやすく、くぼみのない球状の赤血球がたくさんみられる病気です。
●発作性夜間血色素尿症
夜間に血管内で溶血が起こるため、早朝の尿が血色素尿になってしまう、30~40歳に多い後天的な病気です。
PIG-Aという遺伝子に変異が起きてしまい、赤血球の膜にあるGPIアンカー結合型蛋白が欠損してしまいます。
この蛋白の欠損によって、崩壊膜抑制因子であるCD59などが欠損し、補体C3bなどの接触によって赤血球が壊れてしまいます。
------酵素の異常------------------------------------------------
●赤血球酵素異常症
細胞がエネルギーを作る際に必要な酵素、ピルビン酸キナーゼやG6PDが欠乏することで、赤血球が変形して壊れてしまう病気です。
------グロビンの異常------------------------------------------------
●異常ヘモグロビン血症
先天的に、ヘモグロビンの構成成分であるグロビンのアミノ酸が別のアミノ酸に置換された状態
・鎌状赤血球症
パブリック・ドメイン / File:Sicklecells.jpg / Wikipedia
↑
赤血球の酸素が欠乏状態になり、赤血球の中にタクトイドと呼ばれる、短いゲル状の塊ができることで、鎌のような形になってしまいます。
・不安定ヘモグロビン症
変形したヘモグロビンが沈殿し、ハインツ小体という塊が赤血球の中にできてしまう病気です。
------免疫反応によるもの------------------------------------------------
●免疫性溶血性貧血
・自己免疫性溶血性貧血
赤血球に対する自己抗体によって赤血球が壊れてしまいます。
クームス試験という、ヒトグロブリンに対する抗体と赤血球を反応させて凝集反応を見る試験で、原因となる抗体を探します。
温式抗体型自己免疫性溶血性貧血:37℃で凝集が起こる → 自己抗体はIgG
寒冷凝集素症:4℃で凝集が起こる → 自己抗体はIgM
発作性寒冷血色素尿症:4℃で凝集し、37℃になると溶血する
→ ドナート・ランドスタイナー抗体
・不適合輸血による溶血
ABO型またはRh型の不適合によって溶血が起きてしまいます。
・胎児赤芽球症
胎児と母親の血液型が異なる場合、母親の体内に胎児の赤血球に対する抗体ができてしまいます。
その後、第2子の胎児にその抗体が移行してしまい溶血してしまいます。
<2. 再生不良性貧血>
赤血球、白血球(特に顆粒球)、血小板がいずれも減少してしまう貧血です。
これは、骨髄の中の造血幹細胞や造血場の異常によります。
主な症状としては、貧血症状のほかに、顆粒球減少のため感染症にかかりやすいことや、血小板減少のために出血しやすいなどがあります。
<※ 赤芽球癆(ろう)>
骨髄で赤芽球のみの形成がうまくいかないことによる貧血です。
<3. 二次性貧血>
病気が別にあって、その病気によって貧血を起こしてしまいます。
例えば、骨髄に悪性腫瘍が出来てしまった場合、骨髄全体に腫瘍細胞が増殖してしまい、正常な赤血球の産生が抑えられてしまいます。