はじめまして、理系Cuterの塚原です。私が本を読む際は、余り文字は追っていません。ページをめくったら全体的に文章を見て各ページ1秒から3秒ぐらいで内容を把握しています。いわゆる速読の類だと思います。
私の場合、読書は寝る前や電車での移動中、教室移動の合間等限られた時間にすることがほとんどです。分厚い専門書も悠長にゆっくりと読む時間はありません。その中でいかに効率よく本を読むかについては常々意識していました。そのため、もともと読むスピードは人より早い方だったと思います。
しかし、実は「速読」というテクニックを明確に意識したのは大学に入学してからです。それまでも確かに速く読めてはいましたが、ふとそのテクニックを感覚としてではなく自分の中で言語化しておきたいと思いました。速読に関する本は数多く出版されていますが、その中で紹介されているテクニックは以下のように集約されると思います。
・詳細は読まない・構造的に読む
・情報の取捨選択
・知識を蓄える
本ガイドを読まれる方にはおそらくこの速読に興味のある方も多いでしょうから、以下詳細を述べます。
詳細は読まない・構造的に読む
本を読む際、最初から一文一文読んでいくのが正攻法とするなら、速読はそれから大きく逸脱しています。速読において文章を丁寧になぞる作業は存在しません。例えば僕が何か『数学の大統一に挑む』という本を速読するとしましょう(面白い本なのでぜひ手に取ってみてください)。まず、最初にするのは目次の確認です。目次に記載されている章(節)の見出しは、その章(節)の内容を簡潔に表現していることがほとんどです。つまりここでその本の構成と大まかな内容を捉えることができます。
次に内容読んでいくわけですが、その際文章を注視するのではなく、ページ全体を見るように意識します。「そんなので読めてるの?」と聞かれてしまいそうですが、慣れればこれで読めるようになります。コツとしては最後の方に注目するだったり、漢字だけを見て他は補完しながら読むだったり色々ありますが、特に重要なのは「構造として読む」というポイントです。文章には必ず構造があります。最初の方はイントロ、中盤に具体例やデータ、最後の方には筆者の主張といった具合です。この構造を意識し自分は今文章におけるどのパートを読んでいるというのがわかると、文章を理解するスピードが上がります。また、このポイントは次の情報の取捨選択という項目においても重要になります。
情報の取捨選択
速読しながら全ての情報を捌くのは無理があります。事実、速読という技術は限られた時間や制約の中で必要な情報をできるだけ早く抽出するためのある意味ちょっとずるい技術です(鎌田(2018)はこの読書法を「断腸の思いで受け入れざるを得ない」と表現しています)。そこで、必要不必要を見極めながら読む場所を読まない場所をその都度選別して読む必要があるのです。例えば、文章の中で具体例を挙げている箇所と結論を述べている場所では明らかに後者の方が重要度は上です。そこで、前者の具体例は読まない、という大胆な戦略をとり、物理的に読む量を減らすことで読むスピードを上げる事ができます。そのためには前述した文章の構造を全体的に把握するスキルが肝要になってくるのです。
以上2点については石黒(2010)の記述が参考になりますのでぜひご覧ください。
知識を蓄える
最後に非常に重要なポイントについて留意したいと思います。最近は速読という言葉が広く喧伝されており、あたかも万能の技術のような印象を持たれてしまいがちですが、そんなことはありません。寧ろ速読の観点で言うとまずするべきなのは「遅読」です。どういうことか。速読をするには文章の構造を捉えることが重要だと前述しましたが、実はもう一つ重要な抑えておくべき要素があります。それは私達の中にある知識体系(背景知識)です。石黒(2010)はこれをスキーマと呼んでいます。速読をするしないに依らず、文章を読んでいるときに自分に馴染みのあるテーマに関するものは読みやすく感じると思います。それは、そのテーマに関して背景知識があるため、適宜内容を補完したり、主張をイメージしたりし易いからです。つまり逆に言えば、まったく馴染みのないテーマに関する本は速読できません。もし、このガイドを読まれている方がどうしても速読を実践してみたいと思われるなら、まず速読したい分野に関する知識の有無を確認し、ない場合は諦めて知識を獲得するべく遅読することをお勧めします。
これらの点で言うと論文や専門書も速読には向いていません。理論物理の論文では数式やデータがたくさん出てくるため、それらの行間や抽象的概念を逐一確認する作業も必要です。もちろん論文の内容を素早く把握するテクニックもちゃんと存在していますので、それについては他のCuterのガイドを参照ください。
今回は主に速読について執筆してみました。どんな読書技術も万能ではなく、適材適所を見極める必要がある事を念頭に置いて有意義な読書生活を満喫してください。