このガイドでは、「食料としての魚」に焦点を当ててお話しします。
魚は世界中で食べられていますが、その食べ方は地域によって様々です。魚の調理法や保存法などは各地域の気候や特徴を反映する形で文化として残ってきました。では世界にはいったいどんな魚食文化があるのでしょうか?そして日本の魚食文化の特徴は?
このセクションでは、数えきれないほど多く存在する世界の魚食文化からほんの少しだけ紹介し、その背景にある科学にも時折触れていこうと思います。
日本では魚介類の調理法として今では一般的なものに、「天ぷら」があります。実は、天ぷらの発祥は長崎の南蛮渡来によって伝わった、「フリッター」に似せた料理だったとされています。そのため、諸説ありますが、「天ぷら」という言葉はポルトガル語の「tempora :(意)調味する」に由来しているのではないかと考えられています。
今では食感こそ違えど、衣をつけて揚げるという調理法はフリッターと共通しています。アメリカやイギリスでは一般的な料理とされるフリッターですが、中でも、イギリスの「フィッシュ・アンド・チップス」は聞いたことがある方も多いかと思います。
このイギリスのフィッシュ・アンド・チップスでは、バッター液(いわゆる衣)にビールを使います。ここでビールを使うことが重要とされており、ビールに含まれる炭酸(CO2)がバッター液とよく混ざり、高温で揚げられる際に細かい泡となることでサクサク、カリッとした食感を増すことにつながるといわれています。上手に揚げられたフリッター表面の、食欲をそそる金色~褐色の色味は「メイラード反応」というタンパク質と糖の還元作用による化学反応によって出されています。ビールの炭酸によって泡を多く含んだバッター液は、高温の油の中で絶縁体となり、衣の中の素材が熱くなりすぎて焦げるのを防ぎつつ加熱する効果を持つとされています。個人的な推測ですが、魚の身を焦がさず、固くなりすぎない塩梅で程よく加熱するには、この手法との相性がよかったのではないでしょうか。
フィッシュアンドチップス
日本の天ぷらと比較すると、衣の密度が高く、厚い傾向にある気がする。
参考文献
Gibbs, Wayt. Myhrvold Nathan. “Beer Batter is Better” Scientific American (English), Web. <https://www.scientificamerican.com/article/beer-batter-is-better/>. Last Accessed January 14, 2022.
ヨーロッパの国々では、白身の魚が人気です。白身魚と赤身魚の違いについては、後ほど説明します。
ヨーロッパ圏では、マダラやハドックといった魚が主要な水産資源で、一般的に広く流通しています。実はイギリスは過去に3度、アイスランドとの間で「タラ戦争」を起こしており、タラの水産資源としての人気と需要が伺えます。
有名な白身魚としては他にも東南アジア原産のナマズがあります。日本ではあまりナマズを食べるという文化はありませんが、ベトナムでは現在ナマズの養殖が盛んで、外国への輸出も行なっています。ここでいう「ナマズ」とは厳密にはパンガシウス科(Pangasiidae)に属する魚で、「ナマズ」と聞いて多くの日本人が想像するであろうナマズ(Silurus asotus)とは同じナマズ目ではありますが、別種です。パンガシウスは飼育の容易さや淡白な白身の味わいから、今後は白身魚としての世界的な需要を支える可能性があると期待されており、世界各地で養殖が検討され始めています。実は日本でも徐々に流通しつつありますので、スーパーでみかけたら、ぜひ食べてみてください。おろされた状態(フィレ)で流通していることが多く、調理しやすいので魚料理デビューに適していると思います。
余談ですが、パンガシウスは垂れ目っぽい見た目のお魚で独特な表情が可愛いですよ。写真は食用に流通しているパンガシウスに近縁のメコンオオナマズです。
写真:メコンオオナマズ(Pangasianodon gigas)
撮影地:長崎ペンギン水族館
参考文献
松浦 勉. 西岡 不二男. 村田 裕子. 越智 信也. 魚食文化の系譜, 東京, 雄山閣, 2009, 183p, ISBN9784639020998.
高山 和良. “謎の白身魚「パンガシウス」が売れる理由 “SDGs”でMSC認証、ASC認証が付加価値に” 未来コトハジメ. 2020,01,21. (Web), <https://project.nikkeibp.co.jp/mirakoto/atcl/food/h_vol46/>, Last accessed January 21, 2022.