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九州大学の資料とたのしむ競走馬の血統: 競走馬の血統・基本用語

ギャンブルだけじゃない競走馬の魅力,お伝えします!

血統表はこう見よう!

競走馬の名前をインターネットで検索したとき,真っ先に出てくるのはおそらくnetkeibaのページだと思います。重賞を勝利したり顕著な経歴があったりする馬ならWikipediaのページが出てくるかもしれません。
そのページには必ず以下の図が添付されていることでしょう。

netkeibaのデータを元に著者作成(以下同様)

この図は5代血統表といい,その馬の5代前 (人間で言うと曽祖父母の祖父母) までの血統を記したものです。競走馬の家系図と言っても差し支えないでしょう。
青背景に黒文字が牡馬,ピンクの背景に黒文字が牝馬を表します。また,青い太字はインブリード (近親交配) があることを示しています。
この血統表を辿ることで,この馬はサラブレッドの定義に当てはまるかどうかを確認することができます。

架空の血統表を作ることができるサービスもあり,有名馬が引退したら競馬ファンは各々好き勝手に配合を考えて「この配合だとサンデーサイレンスが濃いなー」や「私は理想の配合を考えてしまったのでは!?」などSNS上で好き勝手なことを言っています。私も言いました。

ガイドに登場する用語の説明〜血統編〜

ここでは,このガイドに登場する用語の中でも特に血統に関連する用語を解説します。


○種牡馬

父親になる馬のことです。競走能力に優れている,血統的背景が良いなど,子孫に遺伝させたいと思える形質を持っていないと種牡馬にはなれません。G1競走を複数勝利していても,馬産地の需要や体質によっては種牡馬入りできない馬も多数います。
障害競走で活躍した競走馬は種牡馬入りが難しいと言われていますが,ゴーカイやオジュウチョウサンのようにオーナーの並々ならぬ熱意によって種牡馬になった馬もいます。
人気種牡馬だと年間200頭を超える種付け数を記録することもあります。


○繁殖牝馬

仔馬を生産することを目的として飼養される牝馬のことです。生産者はその牝馬の血統,成績,能力等を熟考した上で,強い産駒の生産を目指し適切な種牡馬を選んで配合します。
ただ,サラブレッドの中でも良血と呼ばれる馬同士を掛け合わせたら絶対に競走成績のよい馬が生まれる,と言い切れないのが難しいところではあります。逆に,いわゆる良血でない馬にも大成するチャンスがあるところに競馬の面白さがあります。


○ブルードメアサイアー(母父)

ブルードメア (繁殖牝馬) サイアー (種牡馬) からなる言葉で,「母父」と表記するのが日本では一般的です。このガイドでも「母父」と表記します。父と母父の組み合わせから,ある程度その馬の距離適性や馬場適性を推測することができます。


○インブリード

 血統表で5代前までに同一の祖先を持っているような配合のことです。近親交配やクロスともいいます。
たとえばNorthern Dancerの4×5×5という表記がある場合は4代前に1回,5代前に2回Northern Dancerとの交配が入っていることをあらわしています。一頭の馬に複数の馬のインブリードが含まれていることも珍しくありません。
サラブレッドの場合,共通祖先が持つ望ましい形質 (スピードがある,スタミナが豊富) を固定するために近親交配が好んで行われるため,大抵の馬はインブリードです。しかし,インブリードによって体質の弱さや体格の小ささ,気性の荒さなど望ましくない潜性形質が現れてしまうこともあるため,慎重に配合が行われています。


○アウトブリード

血統表で5代前までに同一の祖先を持たない配合のことです。代表的なアウトブリード馬としてはステイゴールドがあげられます。
アウトブリードな馬との配合によってインブリードを少なくし,望ましくない潜性形質の発現を防ぐことが期待されています。


○血量

同一馬を血統内にどの程度含んでいるかの指標です。
3×4のインブリード (つまり18.75%同一馬の血を含んでいる) を持つ馬が不思議とよい競走成績をおさめることが多く,「奇跡の血量」と呼ばれているそうです。近年ではオルフェーヴル (ノーザンダンサー) やデアリングタクト (サンデーサイレンス) が「奇跡の血量」を持っている代表的な競走馬です。しかし,3×4のインブリードを持つ馬が必ずしもよい競走成績をおさめるわけではない,ということには留意しておきましょう。
 

ガイドに登場する用語の説明〜レース編〜

ここでは,このガイドに登場する用語の中でも特に競走に関連する用語を解説します。


○距離区分

平地競走では,国際的にはSprint (短距離。1000〜1300m),Mile (マイル。1301〜1899m),Intermediate (中距離。1900〜2100m),Long (長距離。2101〜2700m),Extended (超長距離。2701m以上) のSMILE区分によって競走馬の格付け (レーティング) がなされています。
一方,1971年に定められたJRAの競馬施行規定では1200〜1600mが短距離,1601m〜2200mが中距離,2201m以上が長距離として分類されています。結構ざっくりとしていますね。
このガイドにおいては,「短距離」を1200〜1500m ,「マイル」を1600〜1900m,「中距離」を2000〜2500m,「長距離」を2600m以上として表現しています。
短距離路線 (1200〜1400m) で活躍する馬はスプリンター,マイル路線 (1600〜1800m)で活躍する馬はマイラー,長距離路線 (特に3000m以上) で活躍する馬はステイヤーと呼ばれます。

一方,障害競走ではレーティング制度が存在しないためか明確な距離区分は存在しません。JRAにおいて,障害競走は最短2000m以上で開催するよう定められています。

中山グランドジャンプ (障害4250m) が日本の平地・障害両区分で最長距離のレースです (※)。しかし,海外に目を向けると約5300m (イギリス・チェルトナムゴールドカップ) や6900m (イギリス・グランドナショナル,チェコ・ヴェルカパルドゥビツカ) などの障害レースも存在しています。
(※) 東日本大震災の影響による臨時措置も含めると,2011年中山グランドジャンプの4260mが日本で開催された最長距離のレースです。


○日本のレースコース分類

芝コース,もしくはダートコースで行われる平地競走と障害物が用意されたコースで行われる障害競走の2種類が存在します。
芝コースには野芝 (日本の在来種の芝。地上近くにほふく茎 (水分をあまり含まない) の層を作るため反発力が高くスピードが出やすい) と洋芝 (地下部に細い根が密集したマット層 (水分を含みやすい) を作るため反発力が低くスピードが出にくい) の2種類があります。洋芝を使用している北海道の2場 (札幌,函館) 以外は野芝,もしくは野芝とイタリアンライグラスの混植芝を使用しています。
ダートコースはJRA管轄の競馬場では砂の構成が統一されていますが,地方競馬だとそれぞれの競馬場によって砂の質が異なります。
障害コースはJRA管轄の競馬場にしか存在しません。障害物としてはマサキと呼ばれる植物が密集した生垣,竹ほうきを逆さにしたものが何本も刺さっている竹柵,着地地点に水の張られた水濠,中山競馬場大障害コースの坂路 (高低差5.3m!) や京都競馬場大障害コースの三段跳びに代表されるバンケットなどがあります。


○レースの等級分け 

JRAの主催する平地競走は,新馬戦 (これまでレースを走ったことのない馬のみ出走可能),未勝利戦 (新馬戦に出走し,勝利していない馬が出走可能),自己条件戦 (これまでに勝ったレース数によって出走できるレースが異なる),オープン競走 (4勝以上した馬が出走可能。場合によっては自己条件馬の格上挑戦もありうる) の4つに分類されます。
また,レースには一般競走と特別競走の2種類があります。特別競走は固有のレース名が割り当てられており,出走のためには特別登録が必要です。
障害競走には平地競走のような細かい等級分けはなく,未勝利戦を勝利したらすぐオープン馬として認められ,未勝利戦からJ・G1に挑むことも制度上は可能です。もっとも,中山競馬場の大障害コースは重賞を多数勝利した馬でも油断ならないコースです。そのため,実際にそのようなレース選択をする陣営は数少ないと思われます。


○重賞

特別競走の中でも特に賞金が高額で,重要な意義を持つレースを指します。平地重賞は位が高いものからG1, G2, G3,障害重賞はJ・G1, J・G2, J・G3と分類されます。


○クラシック競走

イギリスで創設された3歳馬限定競走をもとに制定されたレースです。牡馬クラシックは皐月賞 (芝2000m),東京優駿 (日本ダービーとも。芝2400m),菊花賞 (芝3200m),牝馬クラシックは桜花賞 (芝1600m),優駿牝馬 (オークスとも。芝2400m),秋華賞 (芝2000m) の各競走から構成されます。1996年に秋華賞が新設されるまではエリザベス女王杯 (当時は芝2400m,三歳馬限定) が牝馬三冠のラストを飾るレースでした。
牡馬クラシック競走は優れた種牡馬になる素質を持つ馬を選ぶ,という観点もあってか,せん馬は出走できません。


○古馬三冠

春と秋にそれぞれ開催される中長距離のG1を指します。JRA公式の呼称ではありませんが,競馬ファンの間ではこのように呼ばれ,親しまれています。
春古馬三冠は大阪杯 (芝2000m),天皇賞 (春) (芝3200m),宝塚記念 (芝2200m) から,秋古馬三冠は天皇賞 (秋) (芝2000m),ジャパンカップ (芝2400m),有馬記念 (芝2500m) から構成されます。2017年までは大阪杯がG2であったため,秋古馬三冠のみが「古馬三冠」と呼ばれていました。
かつてはテイエムオペラオーやメイショウドトウ,ゼンノロブロイなど数々の名馬たちが秋古馬三冠に挑戦しました。しかし,レースどうしの期間が詰まっているので調整が難しく,近年では古馬三冠路線に皆勤する馬は多くありません。2023年にドウデュースが秋古馬三冠皆勤を達成し,負傷明けの武豊騎手とともに有馬記念を勝利したことをご存知の方もいらっしゃるかもしれません。

☆父と母父から適性を考えてみよう

父と母父の組み合わせが距離適性や馬場適性に与える影響を,5代血統表の紹介で例に挙げたマイネルホウオウを例に考えてみましょう。
マイネルホウオウの父は芝の短距離〜マイル路線で活躍したスズカフェニックス,母父はダートのマイル路線で活躍したフレンチデピュティです。そのため,マイネルホウオウの適性距離は1200〜1800mくらいだと推測することができます。実際にマイネルホウオウはNHKマイルカップ (芝1600m) を2013年に勝利しています。
馬場適性については,マイネルホウオウのようにある程度血統から「この馬は芝の適性があるな」と
予測がつくこともありますが,レースに出走させてみないとわからないこともあります。ダートの中距離路線で活躍したサンデーサイレンスからディープインパクトやスズカフェニックスが,芝の中距離路線で活躍したシンボリクリスエスからダート路線で活躍したサクセスブロッケンやルヴァンスレーヴが輩出されるなど,馬場適性を血統だけから判断することは難しいです。

☆競走馬の「きょうだい」関係

競走馬の兄弟・姉妹の関係は母馬が同じかどうかで判断されます。母と父が同一であれば全兄弟 (全姉妹),母が同じで父が異なる場合は半兄弟 (半姉妹) と呼ばれます。
父親が同じ馬は多数 (それこそ1,000頭以上存在する場合も) 存在し得ますが,母親が同じ馬は多くても20頭前後であるため,競走馬の世界では父親が同じだけでは兄弟・姉妹とは呼ばないのです。

実際の馬を例に説明してみましょう。
障害競走の絶対王者ことオジュウチョウサンと,障害競走のオープンクラスで活躍し,現在は岩手大学馬術部で馬術競技馬として引退競走馬限定の馬術競技大会で全国大会に駒を進めるなど大活躍しているコウキチョウサンはどちらも父がステイゴールド,母がシャドウシルエットなので兄弟 (全兄弟) 関係にあります。

一方,オジュウチョウサンとステイゴールド産駒で初めてJ・G1を制覇したマイネルネオス (父ステイゴールド,母マイネプリテンダー) は母が異なるため同じステイゴールド産駒でも兄弟と呼ばれることはありません。