0. Home
1. イントロダクション
2. 競走馬の血統・基本用語
3. 資料の読み方
4. 資料からたどる名馬たち
4.1 血統表に頻出の馬
4.2 日本競馬を賑わせた外国馬たち
4.3 著者のイチオシ馬たち
5. はみだしよみもの
5.1 ダービーよりも人気のレース!?
5.2 日本の障害競走・超入門
5.3 サラブレッドと (の) 乳母馬
6. おわりに
7. 参考文献
このガイドでは,基本的にサラブレッドの血統について取り扱います。それぞれの馬の血統を紹介する前に「サラブレッド」という品種について確認しておきましょう。
「サラブレッド (Throughbred)」という言葉には「徹底的に品種改良された」という意味があり,文字通り現在に至るまで速く走ることを目的に徹底的な血統の管理と改良が行われています。
「サラブレッド (Throughbred)」という単語が初めて文献に登場したのは,1821年にイギリスで出版されたジェネラル・スタッドブックの第2巻であるといわれています。ジェネラル・スタッドブックは1791年に血統の純粋性を保つ目的で発行され,それをきっかけにサラブレッドの血統登録事業が開始されました。
現在ではイギリスだけでなく,アメリカ,ヨーロッパ,日本など様々な国に血統登録機関があり,サラブレッドの血統を厳密に管理しています。
ある馬が「サラブレッド」として認められるには,
1. 国際血統書委員会によって認められた血統書に父と母両方が記載されている
2. 父と母のうち,少なくとも一方がサラブレッドとの8代交配 (8代前に遡ってサラブレッド以外の品種と交配していない) を経て「サラブレッド」として承認されている
という2つの要件を共に満たしている必要があります。
「サラブレッド」を定義するための厳しい要件からもわかるように,サラブレッドの血統を記録した分厚い資料は「今から自分が買う馬が本当にサラブレッドとしての要件を満たしているのか」を確認するために重要であったことでしょう。
私がこの資料と出会ったのは,2022年ごろのことでした。
理系図書館の3階をふらふらと歩いていた時,重厚な背表紙の資料が大量に収められている書架を発見しました。
フロアマップだとオレンジで丸をつけたところの書架です。
書架の画像は著者が撮影したものである。
フロアマップの画像は九州大学附属図書館ウェブサイトより引用した画像をもとに著者改変。
「競走馬資料…?何が書いてあるんだ?」と一冊手に取って読んでみたところ,過去に生産されたサラブレッドの情報が網羅されていました。日本の著名な競走馬を資料の中から一通り探し終わった時,ふと疑問に思いました。
「なぜ九州大学に競走馬の血統に関する資料がこんなにたくさんあるのか?」
当初は「九州大学で競走馬の研究が盛んになされていた時期があったのだろうか?」「競走馬に関心の深い研究者が在籍していたのだろうか?」と考えていました。しかし,九州大学のリポジトリで「Thoroughbred」や「サラブレッド」,「競走馬」というワードを調べてみましたが一件もヒットしませんでした。
あまりの手掛かりの少なさに自力での調査を早々に断念し,図書館に調査を依頼したところ,これらの競走馬関連資料が2012年に株式会社ジャパンブラッドストックから寄贈されたものであることがわかりました。会社名で検索すると,九州大学の100周年記念事業の寄附者リストにもこの会社の名前があることがわかりました。
しかし,株式会社ジャパンブラッドストックについては2020年1月に閉鎖されたこと以外に業務内容などの詳細な情報が見つかりませんでした。現在競走馬の血統書を発行している公益財団法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナルとの関連性についても調べてみましたが,有力情報は発見できず…。
調べれば調べるほど迷宮入りの様相が深まっているので,この資料が九州大学の100周年記念事業の寄附者より寄贈されたことだけ知っておけば十分でしょう。