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九州大学の資料とたのしむ競走馬の血統: ああ危険なインブリード (近親交配)

ギャンブルだけじゃない競走馬の魅力,お伝えします!

インブリード (近親交配) とは?

競走馬の生産では,共通祖先の持つ長所をより強く引き出すためにしばしばインブリードが行われます。
しかし,共通祖先の長所を引き出すためとはいえ,あまりにインブリードが強くなりすぎると遺伝子疾患や虚弱体質,競走馬としてデビューすることすら難しいほどの気性難を招く危険性があります。
このページでは,インブリードの表記や血量の計算方法の説明,そして「ちょっとそれどうなの!?」と言いたくなるほどのインブリードを持ちながらもレースの世界を賑わせた競走馬たちを紹介します。

「血量」入門編

実際の五代血統表を確認しながら,「血量」とインブリードの計算方法について確認しましょう。

○血量の基本
競走馬の血統表は,列の数が「その馬から何世代離れているか」を示しています。
そして,それぞれのマスに記載されている馬の血量が\(\frac{1}{2^{列数}} \) であるため,各列の総和はいずれも1となります。

 

○インブリードの計算方法
インブリードが含まれている馬の血統表の下には,「Northern Dancerの4×5×5,Hail to Reasonの4×5」のような表記があります。これは,Northern Dancerの血が4代前に1回,5代前に2回入っていることをあらわしています。
この場合,この馬に含まれているNorthern DancerとHail to Reasonの血量は以下のように計算できます。
\begin{align}
B_{Northern\;Dancer} &= \frac{1}{2^{4}} +\frac{1}{2^{5}} + \frac{1}{2^{5}} \\
&= \frac{1}{16} +\frac{1}{32} + \frac{1}{32} \\
& = 0.125
\end{align}

\begin{align}
B_{Hail\;to\;Reason} &= \frac{1}{2^{4}} +\frac{1}{2^{5}}  \\
&= \frac{1}{16} +\frac{1}{32}  \\
& = 0.0938
\end{align}

以上の計算より,この馬にはNorthern Dancerの血が12.5%,Hail to Reasonの血が9.38%含まれていることがわかります。

それでは,実際の五代血統表でインブリードの表記方法と血量の計算方法を確認しましょう!

上に示した五代血統表には,3列目と4列目にノーザンテーストの名前があります。そのため,この馬の持つインブリードは「ノーザンテーストの3×4」であると分かります。

次に,血量を計算してみましょう。3列目と4列目に1回ずつ同じ名前があるので,以下の計算式で血量を求めることができます。
\begin{align}
B_{ノーザンテースト} &= \frac{1}{2^{3}} +\frac{1}{2^{4}}  \\
&= \frac{1}{8} +\frac{1}{16}  \\
& = 0.1875
\end{align}

この式から,この競走馬にはノーザンテーストの血が18.75%含まれていることがわかります。
こんな感じで計算してみるとより血統表を眺めるのが楽しくなるかもしれません。

危険なインブリードを持つ馬たち

まずはこのガイドでも登場したエルコンドルパサーから紹介しましょう。

彼の持つインブリードはSpecialとLisadellの3×4×4 (全姉妹でのクロス),Northern Dancerの3×4,Native Dancerの4×5です。母父の母 (Fairy Bridge) と父母の父 (Nureyev) が半兄弟,しかもFairy BridgeはNorthern Dancerとも交配しています。ちょっと考えるだけで目眩がしそうです。
しかしその強さは紹介した通りの折り紙つきです。強烈なインブリードの成功例,と言ってもよいのではないでしょうか。しかしいつ見ても強烈ですね。

次に紹介するのはノーザンテーストです。

彼の持つインブリードはLady Angelaの2×3です。血統表を見ても分かる通り,母と祖父が半兄弟という人間で考えたら非常に恐ろしい血統の持ち主です。競走馬の血統,特にインブリードを人間に置き換えて考えると色々怖くなるのでやめておきましょう。
現役時代のG1勝利はフォレ賞 (芝1400m) の一つでしたが,種牡馬として多数のG1馬を送りだし,母父としても大活躍しています。

次に紹介するのはイギリスの女傑,エネイブルです。

彼女の持つインブリードはSadler's Wellsの2×3,Nearcticの4×5×5,Hail to Reasonの5×5です。「共通祖先の長所を引き出す」という目的があるにしても流石に多すぎる気がします。
そんなエネイブルですが,2017年と2018年に凱旋門賞を連覇,イギリスとアイルランド両方のオークスを制覇し,G1競走11勝を挙げています。そして引退レースとなった2020年の凱旋門賞以外で3着より下の順位になったことがないというとんでもない強さの持ち主です。

 

 

最後に紹介するのは,11歳まで障害競走を走り抜いた小さき老雄,マイネルレオーネです。

彼の持つインブリードはゴールデンサッシュとサッカーボーイの2×2です。ゴールデンサッシュはサッカーボーイの全妹 (両親共に同じ) であるため,実質的にはサッカーボーイの血が50%を占めていることになります。荒々しい気性を持つ二頭のとんでもない濃さのインブリードを持つ彼はさぞ荒々しく手がつけられない…と思いきや,競走馬を引退するまで気性改善のための去勢がなされることはありませんでした。実際マイネルレオーネが出走するレースを見たことは何度かありますが,パドックなどで大暴れしている印象はなかったです。
濃いインブリードによってか体格には恵まれませんでしたが,2021年ペガサスジャンプステークス (障害3350m) を勝利し,2022年のJ・G1戦線では小柄な体から放たれるミサイルのような末脚を見せつけてファンを魅了しました。いつ見ても彼の末脚には夢を感じずにはいられません。

※YouTubeではペガサスジャンプステークスの映像は見つかりませんでしたが,JRAの公式ホームページから動画が閲覧できます。全人馬無事なのでその点も安心です。