「健康」と「食」という2つのキーワードから何を連想しますか?
高血圧,糖尿病,脂質異常症といった生活習慣病,肥満,摂食障害,食中毒…他にも色々あると思います。
この章では,健康と食の中でも大学生にとってより身近な食物アレルギーとアルコールへの耐性をメインで取り上げていきます。
宗教における食の戒律に比べれば,食物アレルギーやアルコールへの耐性はより身近に感じられるのではないでしょうか。しかし,学生同士だとどうしても「全員が同じものを食べられる」という前提で飲み会のお店やメニューを決めることが多いように感じられます。また,アルコールに関するトラブルは大小を問わず毎年発生しています。このような現状を鑑みると,健康と食の多様性については大学生にとって身近である割に真剣に考えられてこなかった問題だと考えられます。
このガイドをきっかけに,改めて食物アレルギーやアルコールへの耐性について考えてみましょう。
食物アレルギーとは,厚生労働省によると「ある特定の食べ物を摂ったあとにアレルギー反応があらわれる疾患」と定義されています。アレルギー反応にはじんましんや皮膚の赤み (発赤) などの皮膚症状 ,腹痛,下痢,嘔吐などの消化器症状, 目の充血,くしゃみ,鼻水,せき,呼吸困難などの呼吸器症状,頭痛などがあります。上記の症状が強く現れ,血圧の低下や意識障害を伴う場合は「アナフィラキシーショック」と呼ばれ,生命の危険があります。
日本においては,容器包装された加工食品に特定原材料 (卵,乳,小麦,えび,かに,落花生,そば) が含まれる場合は表示が義務付けられています。これらのアレルゲン (アレルギーの原因物質) は日本国内における患者数の多さや症状が重篤になる,という理由で選定されているそうです。これ以外の27品目については,表示が推奨されるにとどまっています。
※スーパーの量り売り惣菜や外食にはこれらの表示義務はありません。うどんと蕎麦を提供する飲食店で「この店ではうどんと蕎麦を同じ鍋で茹でている」という但し書きやアレルゲンを表示したメニューはありますが,あくまでも店側の自主的な対応です。
学校給食では,アレルゲンの完全除去を原則として食物アレルギーをもつ子どもが安全に給食を食べられるように対応が行われています。症状が軽い場合は除去食の提供 (アレルゲンとなる食品を取り除く) で,症状が重い場合 (鍋や調理器具に付着した微量のアレルゲンでも発症する) は弁当の持参で食物アレルギーに対応しています。私は幸いにして食物アレルギーはないのですが,幼い頃に小学校教員の母から「落花生アレルギーがある子どもがクラスにいるが,落花生アレルギーは少し落花生の成分が食事に混入しただけで命が危なくなる可能性がある。だから,その子どもは給食の代わりに家から持参した弁当を食べている」という話を聞き,アレルギーのある人は大変だなあと思った記憶があります。
大学生(20歳以上)が集まって食事をするとき,まず欠かせないのがお酒です。しかし,アルコールの許容量にも個人差があります。もしかすると,今回のテーマの中で最も大学生にとって身近な多様性かもしれません。
私たちがアルコールを摂取すると,まずエタノールが肝臓で有毒なアセトアルデヒドに酸化されます。お酒を飲んだ時に顔が赤くなる,動悸がする,頭が痛くなる,といった症状が引き起こされるのは血液中のアセトアルデヒド濃度が上昇することで引き起こされます。アセトアルデヒドはその後,アセトアルデヒド分解酵素によって酢酸に分解されます。
アセトアルデヒド分解酵素の働きは人種,あるいは個人によって異なります。日本人の約40%がアセトアルデヒド分解酵素の活性が弱い(お酒に弱い)ことや,4%の人がアセトアルデヒド分解酵素の働きが全くない(お酒を飲めない)ことが明らかになっています(出典: サントリー「お酒に強い人・弱い人」)。この酵素の働きは「飲んでいるうちに強くなる」ものではなく,先天的に決まっています。アルコールパッチテストや遺伝子型検査で自分のアルコールへの耐性を知ることができます(自然科学総合実験ではアルコール分解酵素の遺伝子型検査を行うようです)。
飲み会におけるアルコールの強要,一気飲み,アルコールハラスメント(飲酒に関連した嫌がらせや迷惑行為)については,例年九州大学でも3月後半あたりから在校生に対してこれらの行為を厳に慎むよう通達があります(2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響で対面での飲み会自体が開催されていなかったと思いますが…)。アルコールの強要は他人を死に至らしめたり重篤な後遺症を残したりする可能性があります。絶対にやめましょう。