九州大学は様々な国からの留学生を受け入れています。その中には食事について一定の制限(食の戒律)がある宗教を信仰している学生も少なからずいます。
学部生の方は「多様な国の留学生がいるといっても,そこまで関わる機会はないだろうな」と考えていると思います。しかし,研究室配属や大学院進学などで確実に外国の方と関わる機会は増えます。中国,韓国の留学生 (食に対してあまり制限がない) とのかかわりが多くなるとは思いますが,いざ食の戒律がある宗教を信仰している留学生と食卓を囲むときに備えて,九州大学とその学生をとりまく宗教と食の多様性について考えてみましょう。
食の戒律がある宗教のうち,九州大学の留学生が信仰していると考えられるものとして代表的なものがイスラム教やヒンドゥー教です。またキリスト教の一部宗派 (セブンスデー・アドベンチスト教会,末日聖徒イエス・キリスト教会 (モルモン教) ) ,仏教,ユダヤ教にも食の戒律があります。
各宗教で定められた食に対する戒律を以下の表に列挙します。こうしてみると,日本人は色々なものを食べていることがわかります。
個人的にはコーヒー,紅茶の摂取を禁じている宗教があることに驚きました。コーヒーを絶たれては生きていける気がしません。
宗教 |
食べてはいけないもの |
備考 |
イスラム教 |
豚肉 (ラード,ゼラチンなど,豚由来成分も含む) ,アルコール (飲用だけでなく香りづけに使うのもだめ) ,宗教上の適切な処理が施されていない肉,血液 |
コーラン (イスラム教の聖典) の中では,死んだ動物の肉,血液,豚肉や豚由来の食品,異神に捧げられたものを食べることが禁じられている。 ハラルなもの (イスラム教で食べることを許された者) である果物や穀物を発酵させるとハラム (イスラム教で食べることを禁じられたもの) な酒になる,ハラムである赤ワインを酢酸発酵させるとハラルな赤ワインビネガーになる (日本ハラール協会のガイドラインによる) など,ハラルとハラムの性質はある程度の流動性を持つ。 シュブハ (ハラムなものが含まれている疑いのあるもの,完全にハラルと言い切れないもの) は避ける傾向がある。 |
ヒンドゥー教 |
肉,魚介類,卵 |
厳格なヒンドゥー教徒は五葷 (「ごくん」と読む。ニンニク,ニラ,ラッキョウ,玉ねぎ,アサツキなどの香りの強い野菜) を食べることが禁じられている。 |
キリスト教 |
動物性食品 (セブンスデー・アドベンチスト教会) |
基本的にキリスト教全体としての食の戒律は存在しない。 |
仏教 |
動物性食品,五葷 |
食事の制限は一部の僧侶や厳格な信者に限定される。 |
ユダヤ教 |
豚,血液,イカ,タコ,エビ,カニ,ウナギ,貝類,ウサギ,馬,宗教上の適切な処理が施されていない肉, |
乳製品と肉料理の組み合わせ:シチューやチーズバーガーなど肉と乳製品を一つの料理で摂取することだけでなく,胃のなかで肉と乳製品が混ざり合うことも禁じている(例: ステーキを食べたあと,デザートにチーズケーキを食べてはいけない)。 |
(データソース: 多様な食文化・食習慣を有する外国人客への対応マニュアル ~外国人のお客様に日本での食事を楽しんでもらうために~
九州大学には留学生が2,289名在籍しています。(2019年11月1日時点のデータ。ソース: データ集 | Global Gateways Kyushu University)
そのうち,食の戒律がある宗教(イスラム教,ヒンドゥー教)の信者が多数を占める国から来た学生は350名。仏教徒でも食の戒律を守っている人の予測値を加えると約380名が食に関して何らかの制約を持っているという計算になります。留学生全体の15%ほど,と考えると無視できる数字でもありません。
九州大学の中だけでも宗教についてはこれだけの多様性があります。無論,日本人学生でも食に戒律のある宗教を信仰している可能性はゼロではありません。
※「食の戒律がある宗教を信仰している国から来た学生の数」は,外務省のデータベースに掲載されている各国の主な宗教をもとに計算しています。情報が不足していると判断した国はその他の情報ソースも加味して計算しています。あくまで予測値であり,正確なデータではありませんのでご了承ください。
外国人旅行者,外国人留学生の数は年々増加しています。こうした状況を受けて,国土交通省が全国の飲食店にむけて多様な食文化・食習慣をもつ人に日本食を楽しんでもらうためのガイドラインを2008年に発行しています。食の多様性については2010年代後半になって注目されたように感じますが,日本国政府として食の多様性に関するガイドラインがそれ以前から存在していたことに驚きました。
福岡でもイスラム教徒の声をもとに作成されたイスラム教徒が安心して利用できる飲食店をまとめたガイドや,イスラム教徒が安心して利用できる食品やサービスを提供する飲食店,ホテルをまとめたウェブサイトがあります。
「親しい友達やサークルに留学生がいないし関係ないや」と考えている学部生のあなたも,もしかしたら配属された研究室の留学生と接することになるかもしれません。留学生と接する機会が増えた方もそうでない方も,宗教的な戒律をもつ人と食卓を囲む時のことをちょっと考えてみましょう。もしかすると新しい食の発見があるかもしれませんよ。