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★食卓の上の多様性: 「ハラム」を考えてみよう

誰かと食卓を囲むとき,そこには確かに多様性が存在しています。このガイドでは,食卓の上にある多様性という視点からより多くの人がおいしく,楽しく食卓を囲むためのヒントを提供します。

なぜ「食べてはいけない」の?

このガイドでは様々な食の多様性を取り上げてきましたが,ここでは特にイスラム教のタブー (ハラム) であるアルコールと豚について,なぜ禁じられたのかを様々な方向から考えてみましょう。
日本人からすれば一見理不尽なように思えるハラムも,視点を変えてみると極めて合理的なものかもしれませんよ。
※主に「病気の世界地図・トラベルドクターとまわる世界旅行」を参照しています

アルコールのタブー

イスラム教ではアルコールが禁じられている,というのはこのガイドをここまで読んでくださった皆さんならすでにご存知かと思います。しかし,今でこそイスラム教が広く浸透している中東地域でも酒が広く飲まれていた時代があったんです。

イスラム教が浸透する前の中東では,ブドウやデーツ (※1) を原料とする蒸留酒が広く飲まれていたそうです。 今でいうブランデーのようなものなので度数が高く (およそ40〜50度) ,当然たちの悪い酔っ払いが出現し,乱暴狼藉が働かれます。それを重くみたイスラム教の預言者ムハンマドはイスラム教を布教する際に飲酒を禁じた,というエピソードがコーランに記されています。今も昔もたちの悪い酔っ払いのやることはそこまで変化していないですね。ただし,コーランには「現世で良い行いをし,イスラム教の天国に行けば人を酔わせて狂わせることのない特別な酒の川がある。そこで好きなだけ酒を飲めるからそれまでは酒を我慢するように」という記述もあります

こうしてみると,共同体の秩序を維持する手段として飲酒を禁じることは確かに合理的なように思えます。過去に参加したサークルの飲み会などを思い返してみると,特に大学生の読者の皆さんは思い当たる節があるのではないでしょうか。
「イスラム教徒として良い行いをすれば天国に行くことができ,そこでは酩酊して乱暴狼藉を働くことなくいくらでも酒が飲める」というような記述が,ムハンマドの言葉を記しているコーランにあることも面白いですね。

参考文献でも紹介している「サトコとナダ」という漫画の64話には,イスラム教徒であるナダの「私は死んだらどれだけ飲んでも頭が痛くならないお酒の川に行けるのだから…」というセリフがありました。ナダの出身地であるサウジアラビアは特に敬虔なイスラム教国家で,イスラム教徒は当然として外国人の飲酒も禁じられている,医療用消毒アルコールの使用も慎重にする必要があるなど,特に制約が強いです。しかし,トルコやモロッコなど一部のイスラム教圏ではイスラム教徒であってもある程度飲酒が許容されており,外国人観光客は「イスラム教国家」というイメージからは想像もつかないくらい,かなり自由に飲酒ができるそうです。

(※1) デーツ: ナツメヤシの果実。果糖や食物繊維,ミネラルを豊富に含み,中東では古くから重要な食品の一つとして親しまれてきた。近年は日本でも容易に入手できる。甘さが強く味に癖がない。「干し柿のような味」と言われることも。 

豚のタブー

飲酒がある程度許容されているトルコにおいても,豚肉や豚由来製品は絶対的なタブーとされています。なぜ豚がタブーになっているのかを様々な視点から考えていきましょう。

  1. イスラム教成立の背景から
    イスラム教が成立した中東には,ユダヤ教というキリスト教の源流となった宗教が存在します。ユダヤ教の食に関する規定であるコーシェル (コーシャーとも) では,「豚は不浄な動物である」として豚肉食を禁止しています。そのため,ユダヤ教と同一の神を信仰するイスラム教,初期のキリスト教も同様に豚肉食が禁止された,という歴史的背景があります。キリスト教では後に豚肉食のタブーは無くなりますが,ユダヤ教とイスラム教は現在に至るまで豚肉食をタブーとしています。

     
  2. ブタという家畜種の特性から
    ブタが不潔な動物=不浄なものとして考えられるようになったこととして,ブタの食性とブタが家畜化された背景にあると考えられています。
    ブタはおよそ8000年ほど前に野生のイノシシを飼い慣らして家畜化されました。ブタは食肉のためだけに家畜化されたと考えてしまいますが,雑食性を利用した有機廃棄物 (残飯などの生ゴミ) の処理も家畜化の目的だったのです。有機廃棄物の中には病原体に汚染された動物の死骸も含まれており,そこから寄生虫に感染するリスクがありました。ユダヤ教,イスラム教で食べることを許された生き物であるウシやヒツジは完全な草食であるため,死体由来の寄生虫に冒されるリスクが低いと考えられた結果「食べても良い動物」とみなされたと考えられます。
    寄生虫については後述しますが,なんでも節操なく食べる食べるブタの姿を見て「ブタは不潔で貪欲な生き物だ,だから不浄なものだ」と考えても不思議ではないのかもしれません。

     
  3. 医学的観点から
    牛肉,鶏肉はそれぞれレアのステーキ,鳥刺し (九州以外だとマイナー) などで新鮮なものに限って半生の状態で喫食することもありますが,いくら新鮮なものでも豚肉を半生の状態で食べることはありません。料理の初心者向けの本には必ず「豚肉は芯まで火を通してから食べるように」と書いています。これは,先述した寄生虫由来の感染症リスクを避けるための予防策です。
    豚肉には有鉤条虫 (サナダムシの一種) や旋毛虫など,人体にとって有害な症状を引き起こす寄生虫が感染するリスクが非常に高いです。いずれの寄生虫も高温で加熱すれば死滅し,安全に食べることができます。しかし,現代のような医学知識の蓄積がない時代では加熱の不十分な豚肉を食べ,その結果寄生虫に感染して亡くなるという事態も珍しくなかったのでしょう。そのため,人体にとって危険な豚肉を回避するという発想に至ったとも考えられます。

イスラム教が豚肉をタブーとする理由については,大きく以上の3つが考えられます。しかし,加熱して食べれば寄生虫のリスクはなくなる,現在の日本で流通する豚肉は食餌をはじめとした衛生管理が徹底している,といっても「コーランの中で禁じられている」ということが,現代イスラム教徒において豚肉をタブーとする最大の理由なのではないでしょうか。

 

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