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貴重資料(九大コレクション)   Tags: 九大コレクション, 九州大学, 図書館  

九州大学が所蔵する文庫・文書群等の目録データベースです。一部資料はデジタル画像を公開しています。また、活字本の対応ページから検索できる資料もあります。
最終更新日/Updated: Jan 11, 2016 URL: http://guides.lib.kyushu-u.ac.jp/rare ガイドを印刷する RSSの更新

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江戸初期刊 無跋無刊記 整版本 源氏物語

九州大学大学院人文科学研究院 今西祐一郎

 

 

平安時代以来、ほぼ600年にわたって筆写によってのみ伝えられてきた『源氏物語』が、新しい伝達手段、すなわち印刷という技術によって出版されるようになったのは、江戸時代になってからである。

『源氏物語』だけではない。江戸時代になってすぐ、慶長、元和、寛永の間に、膨大な漢籍そして国書の出版を見るようになる。その始めは「古活字版」とよばれる活字印刷から出発した。それは、室町時代末期、キリシタンの宣教師の手になる活字印刷(「天草版」とよばれる)、および朝鮮半島から将来された活字印刷の技術を援用した成果であったといわれるが、『伊勢物語』や『源氏物語』をはじめ『枕草子』も『徒然草』も『平家物語』も、さらに『源平盛衰記』、『太平記』などなど、数多くの作品が、まず古活字版として出版された。

しかし、活字を用いての印刷という技術的な制約から、個々の出版物の部数は限られていたらしく、その短所を補うべくそれぞれに少なからぬ異植字版が出版されたものの、出版方法の大勢は寛永期を境に、古活字版から整版へと移行する。もちろん『源氏物語』もその例外ではなかった。

『源氏物語』の場合、古活字版はこれまで、

  • 1 十行古活字版
  • 2 伝嵯峨本
  • 3 元和9年古活字版
  • 4 寛永頃古活字版
  • 5 九州大学本

の5種および4、5の異植字版の存在が知られている。そのうち5の九州大学本は、すでに平成11年、九州大学附属図書館研究開発室において、『源氏物語大成』校異篇対応の全巻画像データベースを作成し、九州大学附属図書館のホームページ上で公開中である。

これらの古活字版『源氏物語』の後を承け、慶安年間前後から延宝年間にかけて『源氏物語』の整版本が以下のように続々と出版されるようになる。

  • 6  無跋無刊記本 寛永正保ころ(1640〜8)刊
  • 7  絵入り源氏 慶安3年(1650)刊
  • 8  版本万水一露 承応元年(1652)刊
  • 9  絵入り横本 万治3年(1660)刊
  • 10  絵入り小本 寛文頃刊
  • 11  首書源氏物語 寛文13(1673)年刊
  • 12  源氏物語湖月抄 延宝3年(1673)刊

今回は、その中でももっとも早い時期に出版されたと考えられる、6 無跋無刊記整版本の画像データベースを、先の九大本古活字版『源氏物語』画像データベースと同じ要領で制作し、閲覧に供するものである。

江戸初期刊無跋無刊記整版『源氏物語』については、近年、清水婦久子氏によって精力的にその実体の解明が進められるまで(本解説における「無跋無刊記本」という呼称も、清水氏に倣ったものである)、ほとんど研究の対象とされることもなく、一部識者の間で、「素(す)源氏」の称されていた本だという。

名称に冠せられた「素」とは、広く流布した「絵入り源氏」や、『湖月抄』などの注釈書に対しての「素」、すなわち清水氏によって、

寛文中期以後の版本に見られるような柱刻や丁付けもなく、本文には句読点も濁点も付けられていない。このような体裁は、写本や古活字版に共通するが、整版本としてはむしろ異例である。挿絵や注釈、そして刊記も付録もない、物語本文だけを刻した整版本である。

と指摘された、この版本の姿を指しての語であろう。

版面は、古活字版が微妙な曲線の多い仮名を活字化するという無理ゆえに、文字列のぎこちなさを免れないのに対し、版画のように文字を直接版木に彫る整版によって印刷された本書は、仮名文字の流麗さを十分に再現して美麗である。

本文は、古活字版以降の版本『源氏物語』と同じく、中世後期源氏学の流れを汲む青表紙本系統に属するが、清水婦久子氏によれば、本書の本文は、前節、版本『源氏物語』一覧の8 版本『万水一露』の本文と非常に近い関係にあるという。巻名の表記において、「賢木」を「龍狼木」、「明石」を「赤石」、「澪標(みをつくし)」を「水衝石」という他の版本には見出されない特異な漢字表記を、無刊記本と版本『万水一露』が共有するのも、両者の交渉を暗示して興味深い。

他方、本文の表記という観点からは、後掲の桐壷巻諸版本校異一覧から窺われるように、九大本古活字版(およびそれに酷似する寛永頃古活字版)と、漢字、仮名の使い分けまで往々一致して、それ以後に出版され広く流布した「絵入り源氏」や『湖月抄』の本文とは微妙な相違を示す点が注意を惹く。

参考文献 川瀬一馬『増補古活字版之研究』(The Antiqurian Booksellers Association of Japan)
清水婦久子『源氏物語版本の研究』(和泉書院)

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