Skip to Main Content

日本古典籍 所蔵資料解説: 清少納言枕双紙抄

附属図書館研究開発室等の事業において電子化された日本古典籍を中心とする資料とその解説をまとめたものです。また、活字本の対応ページから検索できる資料もあります。

解説

人文科学研究院 今西祐一郎

 

 

昨12年度の〈古活字版『枕草子』(13行本)画像データベース〉(付・慶安二年刊整版本)において、江戸時代初期に出版された2種の『枕草子』版本を画像データベースとして提供したのに引き続き、今年度は、同じく江戸時代元禄期以前に出版された『枕草子』の注釈書、『清少納言枕双紙抄』の画像データベースを提供する。

江戸時代に出版された『枕草子』の注釈書としては、延宝2年(1674)の跋をもつ北村季吟(1624〜1705)の『枕草子春曙抄』が著名であり、刊行以来、明治にいたるまで版木が摩滅するほどに版を重ね、与謝野晶子に、

  春曙抄に伊勢をかさねてかさ足らぬ枕はやがてくづれけるかな

の詠があるように、近代になってからも『枕草子』のもっとも信頼すべき注釈書としての名声を保ち続けてきた。

他方、その『春曙抄』の跋と同じ延宝2年の刊記を有する、加藤盤齋(1625〜1674)の手になる『清少納言枕草子抄』(15巻15冊)は、『春曙抄』の盛行に圧されたせいか、さほどの流布は見られなかった。したがって現存本も多くはなく、『国書総目録』に記載されるのは次の8図書館・文庫の蔵本のみである。

  •     国立公文書館内閣文庫
  •     静嘉堂文庫
  •     九州大学附属図書館
  •     実践女子大学
  •     京都府立図書館
  •     西尾市立図書館岩瀬文庫
  •     島原松平文庫
  •     金刀比羅宮図書館 

しかし、『清少納言枕双紙抄』は『枕草子』注釈史の上では無視できない著作であり、はやく国文註釈全書(明治41年、國學院大學出版部)および 国文学註釈叢書(昭和5年、名著刊行会)において翻字本が刊行された。また、昭和60年には『加藤盤齋古注釈集成』(新典社)の第2巻に編者有吉氏蔵本の『清少納言枕双紙抄』が全巻影印された。

今回の画像データベースは、『国書総目録』に記載される九州大学附属図書館音無文庫蔵本によるものである。

なお、本書が刊行された延宝2年は、著者盤齋死去の年であり、またその同じ年に後に本書を圧倒する季吟の『春曙抄』の跋が書かれていることに関しては、野村貫次『季吟本への道のり』(『北村季吟古註釈集成』別巻1、昭和58年、新典社刊)に言及がある。

画像には、古活字版データベースの場合と同様、『校本枕冊子』の章段番号を付記し、その章段番号による画像検索システムを採用した。

今回の『清少納言枕双紙抄』にかぎらず、江戸時代刊の『枕草子』注釈書の本文は、原則的には前回データベース化した古活字版のような、能因本系統の本文であるが、その実態は三巻本系統の本文の混入によって、必ずしも純粋な能因本とはいえない要素が見られ、個々の章段の検索は、一般の読者はもとより、研究者にとっても容易ではない。本データベースでは、画像に、能因本系統の最善本を採用する『校本枕冊子』の章段番号を付記し、それを検索のキイとすることによって、『清少納言枕双紙抄』の錯綜した本文の検索を容易にした。その結果、江戸時代の『枕草子』注釈書の本文において、能因本系統の本文が蒙った変容を容易に窺うことができるようになり、近世『枕草子』の本文研究への寄与が期待される。

2

前節で述べたように、『清少納言枕双紙抄』の本文は元来の能因本の形態に忠実ではない。その複雑な本文の様相については、はやく鈴木知太郎「枕草子諸板本の本文の成立ー特に慶安板本、盤齋抄、春曙抄、旁註本についてー」(『文学』第3巻第2号)の指摘するところであるが、『校本枕冊子』の章段構成と異なる主要な点を以下に摘記する。

  • 64段の次に222段
  • 67、70、68、69、71段の順
  • 112段なし
  • 182、235、236、237、238、239、183段の順
  • 192段から196段を欠く
  • 201段を「ひきものは」と「しらべは」の2段に分ける
  • 217段末に3巻本逸文17段「成信の中将こそ、人の声いみじうよう聞しり給ひしか」 が続く
  • 230段の後に、3巻本逸文40段又一本中の「霧は川霧」を一段として立てる
  • 235段から239段は182段の後
  • 240段なし
  • 241段は26段に続く
  • 253段の後に三巻本251、252、253、254、255段が入る
  • 295段は、294段末尾の頭注欄に「或本ニ なくさめ所なりけるト云つゞきに少し 詞あり 如左」として、掲出
  • 295、297、298、296、299段の順
  • 306〜308段なし
  • 322段は、321段末尾の頭注欄に「たゞ人に見えけんそねたきやト云つゞきに。或 本ニハ如斯の詞あり。」として、掲出。「以上如此の詞侍る也 されと今の伝本に見えね は抄には不用之 好む人の便にとおもひて頭に記し畢ヌ」
  • 323段なし
  • 新抄122段は『校本枕冊子』になし(3巻本逸文40段)
  • 新抄149段は『校本枕冊子』付19段
  • 新抄152段は『校本枕冊子』一本9段