「変体仮名」もれっきとした文字の仲間ですから、それを読むためには、どうしても一つ一つの字形を覚えていく必要があります。
これをただの暗記作業だと思うと「大変そう、やっぱりやめとこうかな」という気分になってしまいます。
しかし、実際に読んでみると分かるのですが、「変体仮名」はパズルを解くような面白さがあるのです。
ここでは、「変体仮名」と仲良くなるためのコツをいくつか紹介しましょう。
図2-1 |
図2-2 |
図2-3 |
図2に示した三つの「る」。これらの字体はなぜ違うのでしょうか。
それは、元になった漢字が違うからです。
左の「る」は「累」が崩れてできました。一方、真ん中は「類」、右は「流」を元にした仮名なのです。※なお、現在の「る」は「留」が元になった平仮名です。
このように、仮名の元になった漢字を「字母」と言います。変体仮名を覚える際には、仮名と字母を結び付けておくと忘れにくくなります。
例えば図3の文字。それぞれ「あ」「や」「れ」と読みます。
図3-1 |
図3-2 |
図3-3 |
捉え所のない形をしていますが、字母はそれぞれ「阿」「屋」「連」です。そう思って見ると、どうでしょうか。段々と、それぞれがその文字に見えてくるような気がしないでしょうか(してほしい)。
字母を意識することで、「このような仮名があるのだ」と記憶しやすくなるわけです。
図3-1,3-2,3-3:無跋無刊記製版本『源氏物語』桐壷
(個人蔵、九大コレクションにて公開)を改変
とはいえ、字母を意識したとしても、どうにも覚えづらい変体仮名もあります。
例えば前ページに登場した「てつはう」。
「つ」の字母は「川」。現代の「つ・ツ」と同じなので、さほど難しくありません。
問題は「は」の方です。こちらは「者」を字母とします。(漢文で「者」を助詞の「は」と読むことに由来します。)この字形と「者」を結び付けるのは容易ではありません。「覚えられる気がしない」という人もいるのではないでしょうか。
しかし、不安に思う必要はありません。文字を少しずつ覚えていくと、穴埋め問題式に推測が効くようになります。例えば図4-2を見てみましょう。どうでしょうか。さきほど「てつはう」を読んだ人であれば、これが自然と「あはれなる」に見えたことでしょう。もっと分かりやすいのが図4-3です。ここでは「發明」の振り仮名として登場していますから、ごく自然に「は」が読めるわけです。
図4-1 |
図4-2 |
図4-3 |
このようにして、単体では読みづらい仮名も、前後(あるいは左右)の文字と組み合わせることで容易に読めるようになります。これを繰り返すことで、次第に字形に慣れることができるわけです。
図4-1:『蒙古襲来絵詞(模本)』(九州大学附属図書館所蔵)を改変 |
前出の「は」のように、字母からかけ離れた形の仮名があることも事実です。というのも、頻繁に使われる仮名は、より書きやすく崩されていくからです。ただ、逆の見方をすれば、そうした変体仮名は非常に高頻度で登場しますから、「習うより慣れよ」式に覚えていくのが良いでしょう。
ここでぜひとも紹介しておきたい例があります。図5-1の仮名です。これは「に」と読みます。字母は「尓」ですが、そんなことはどうでもよくなるほど頻繁に登場します。図5-2では、この「に」を〇で囲んでいます。一つの紙面だけでもこれほど登場するのですから、いかに高頻度で使われているかが分かるでしょう。
図5-1 |
図5-2 |
もう一例紹介します。図6-1の仮名です。「う」ではありません。
図6-1 |
図6-2 |
図6-3 |
これは「か」と読みます。字母は「可」です。こちらもきわめて頻繁に書かれますが、字形から「う」や「の」と読み間違いやすいので注意せねばなりません。図6-2、図6-3の通り、近くの文字とのつながりや、文脈などを意識すると、スムーズに読むことができます。
図5-1,5-2:無跋無刊記製版本『源氏物語』桐壷 |
ここまで、変体仮名と仲良くなるコツを紹介していきました。
大切なのは、すべてを一気に覚えようとしなくてもよいということです。
区別しにくい字も、前後の文字の並びから、だいたいの推測が付くようになります。
形が大きく崩れていても、頻繁に登場する字は慣れが効いてきます。
くずし字は、味のあるイイやつです。こちらが楽しそうにしていれば、向こうも心を開いてくれることでしょう。肩ひじ張らず、気楽に構えることが大切です。
書籍・webサイトなど、変体仮名を覚えるツールは沢山あります。
くずし字学習のためのアプリもあります(詳しくはこちらで解説)。
日本文学系の学生さんであれば、研究室やゼミなどで、暗記プリントなどが共有されているかもしれません。
九大図書館でも、くずし字を覚えられる書籍をいくつか所蔵しています。
詳しくは附:関連書籍で詳しく紹介していますので、ぜひご覧ください。
各種ツールを活用しながら、一通り変体仮名を覚えてみましょう。
覚えたあとは、実戦あるのみ!
次はいよいよ「手習い三番勝負」です‼