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九コレで学ぶ「くずし字」の世界: 番外編    写本

古い時代の資料に書かれた、読めそうで読めない「くずし字」。九大コレクション(九コレ)で九大所蔵の資料を眺めながら、「くずし字」の世界に触れてみましょう。

番外編 写本

現代では「本」と言われると、ほぼ全て印刷されたものをイメージすると思います。「難易度★ 印刷された出版物」でも触れた通り、江戸時代には商業としての出版も広く行われました。
しかし一方で、近代以前には手書きの書物も独自に読み継がれてきました。その多くは、もととなる本を書き写すことで作られた本です。こうした本を
「写本」と言います。写本の読みやすさはピンからキリまで、非常にさまざまです。というのも、書き写した人の力量や姿勢によるためです。
写本を調べると、その本がどの本をもとにしているのか、誰に読まれたのか、どう読まれたのか、なども分かってきます。時に、もとの本には無い情報が書き足されたり、もとの本にあった情報が抜け落ちたり、さまざまな変化が見られることもあり、非常に興味深い資料です。板本と同様、多数の資料が現在にまで保存されて伝わっています。

「手習い三番勝負!」で自信をつけた方は、写本にトライしてみるのも良いでしょう。
多くの学術機関が資料画像を公開しており、写本も多数閲覧できます。
詳しくは「オンラインでくずし字を読もう」をご覧ください。

たとえば

細川文庫本 狭衣物語

資料全体の画像はこちら

『狭衣物語』は平安時代後期に成立した物語です。貴公子狭衣さごろもを主人公に、彼が悲恋を繰り返すさまが描かれます。書かれたのは11世紀の後半ごろとされ、『源氏物語』で確立した物語文学の手法を継承・発展させたものとして評価されている物語です。
Cute.Guidesでは、今西祐一郎先生、田村隆先生による詳しい解説があります。それによりますと、細川本『狭衣物語』は、薩摩国で写された本をさらに書き写した本であると考えられています。『狭衣物語』には、大別すると三つの系統の写本がありますが、
この細川文庫本『狭衣物語』は、複数の系統の本文が用いられていたり、この本にのみ見られる描写が書き足されていたりと、独特な本文を持っており、写本が形成されていく過程を考えるうえで興味深い資料です。

[参考]
Cute.Guides:「貴重資料(九大コレクション): 狭衣物語 細川文庫本」(田村隆、今西祐一郎)