下の画像をご覧ください。
図1-1 |
図1-2 |
九州博多に関係の深い「蒙古襲来絵詞」の有名な一場面です。元寇を迎え撃つ武将、竹崎季長の目の前で炸裂するのは、火薬を詰めた鉄の玉。血を吹きながら慄く馬の様子は、戦闘の激しさを物語ります。
画像を拡大すると、図1-2の通り、鉄球のそばに名前が書いてあります。この爆弾を「てつはう」と呼ぶことが分かるわけです。
さて、ここで多くの現代人はこう思うことでしょう。
どうやったらこれが「てつはう」と読めるの?
「て〇〇う」なのは何となく分かりますが、途中の二文字は何なのでしょうか。見たことのあるような無いような、何とも言えない形です。
ここに書いてあるのは、今は使われなくなった仮名文字です。仮名文字といえば、漢字を崩してできた平仮名、漢字の一部を取ってできた片仮名がありますが、ここに書かれている「つ」も「は」も、漢字を崩してできた仮名なのです。このような、現在では使われなくなった仮名文字のことを「変体仮名」と言います。
図1-1,1-2:『蒙古襲来絵詞(模本)』(九州大学附属図書館所蔵)を改変
たとえば現在、「Su」の音は「す」や「ス」の仮名で表現します。一つの音を、平仮名ひとつ、片仮名ひとつが担当する仕組みです。
しかし、前近代の日本では、一つの音を表すのにも複数の字形が使われていました。
例えば図2は、同じ資料の同じ頁から、三か所の文字を抜き出したものです。
図2-1 |
図2-2 |
図2-3 |
互いに似ても似つかない字形ですが、これらは全て「る」を表します。前近代の人々にとって仮名に複数の字形があることは当然のことだったのです。
明治時代、日本の近代化に伴い、仮名文字の字形も標準化が進みました。その結果、現在の私たちにとっては、(「は」「へ」などの例外を除き)ひとつの音にひとつの文字、というのが常識になったわけです。そして、現在は使われなくなった仮名は、便宜上「変体仮名」と呼ばれるようになりました。
ですから、前近代の資料を読むためにまず必要なのは、この「変体仮名」と仲良くなることなのです。
図2-1,2-2,2-3:古活字版『枕草子』(九州大学附属図書館所蔵)を改変