身近にSFをみつけてみる
「スター・ウォーズ / 最後のジェダイ」,「スパイダーマン / ホームカミング」,「ブレード・ランナー 2049」…
これから年末年始にかけて,たくさんの映画が公開されますね.
ところで,上に挙げたこれらの映画の共通点,わかりますか??
実は,これらはすべて「SF映画」と呼ばれる映画たちなのです.
スター・ウォーズは「ロケット」で宇宙を駆け巡り「フォース」を操るジェダイなる存在が出てくる.スパイダーマンは「遺伝子操作」されたクモに主人公が刺されることによって「ミュータント」化する.ブレードランナーにはレプリカントと呼ばれる「人造人間(ロボットのようなもの)」が出てくる…たしかにたしかに,なんだかSFっぽい道具がたくさん出てきてますね.
SFとはなんだろうか??
あれ?でも,宇宙船,ミュータント,人造人間(ロボット)が出てくれば,それは「SF」っていえるのでしょうか?SFっていったいなんなのでしょうか?今回のCuter本棚は「SF」特集 です.この本棚を作るにあたって,Cuterたちは次のような定義に基づいて図書館の中から本を集めてきました.その定義とは,
1. その話の中核となるガジェット(道具)ないし世界背景が,現代の自然科学の知識に基づいた理屈によって説明されている.
2. 理屈が示されていない場合にも,読み手がその話を解釈することによって科学的知識に基づいた理屈を想定することができる
これらの2つです.もちろん,これまでのSF史のなかで多くの作家・研究者たちがSFの定義について意見を述べています.上記の定義は,あくまでただのSF愛好家,筆者の意見としてみてください.
狭義の(ハードな)SFであれば ” 1. “ の定義だけでよいのかもしれません.しかしながらSF史のはじまりから今に至るまで,話のなかに表立って「科学的」な「理屈」が示されないSFは数多く存在します.
(筆者はそのようなSFが,特に「タイムトラベルもの」SFの中に多いと考えています.気になる人は今回の本棚の中にある「ここがウィネトカならきみはジュディ」という名作を参照)
筆者はそのような小説であっても,「読者」が物語の背景に存在する「理屈」を想像し,我々の科学社会の来し方行く末,または科学を扱う人々の人間性を考えるきっかけになる作品であれば,それはSFと呼んでもよいのではないか,と思います.だから, 定義に “2” を加えました.私は人類へのそのような問いかけこそが,SFがこの世に生まれてから現在に至るまでずっと持ち続けてきた,「SFのマインド」をよく現しているように思うからです.
SFのマインド
SFのマインドは,SF黎明期の作品たちの中にも見て取ることができます.
SF小説の本当の始まりをどの時代にするのかは,大変難しい問題です.一般的に,これは確実にSFだろうといえるもので一番古い作品は,19世紀フランスの小説家ジュール・ヴェルヌ(1828 - 1905)の書いた「月世界旅行」(1965)だといわれています.ヴェルヌは冒険小説的なSFを書き,有名な作品では海洋冒険SFの「海底二万マイル」があります.もう一人,SF小説の創始者といわれるのが同時代イギリスのハーバート・ジョージ・ウェルズ(1866 - 1946)です.彼は有名な「タイムマシン」や「宇宙戦争」を書きました.
「海底二万マイル」は,当時の最新技術であった電気工学の知識を駆使して潜水艦での旅を描いた海洋冒険SFです.海底を素晴らしい速さでかけめぐる潜水艦ノーチラス号は科学のもつ可能性を読者に期待させるガジェットでした.しかし一方で,ノーチラス号は復讐心に取りつかれたネモ艦長の操る兵器でもあります.このSFの中で描かれているのは,科学の応用が見せる素晴らしさと恐ろしさの二面性でした.この小説で主人公は最後にこう語ります.「(ネモ艦長が)平和になった海のなかを,あの素晴らしい機械でかけめぐるようになることを願ってやまない」
「タイムマシン」は世界最初の「理屈」あるタイムトラベル小説です.主人公はタイムマシンを発明し,西暦80万2701年の世界を旅します.そこは19世紀の有閑階級の末裔であるイーロイと,労働者階級の末裔であるモーロックが争う世界でした.この小説は世界最初のタイムトラベルSFであったと同時に,ウェルズの文明批判でもあったのです.この物語の終盤で,イーロイの少女ウィーナが主人公に花を手渡します.その行為の中には,知性も生きる力も失ってしまったイーロイたち未来人の中にも,80万年を経てなおも変わることのない人間性というものが存在することを示していました.
「海底二万マイル」,「タイムマシン」.最初期のこれらのSFに,すでに「SFのマインド」を見て取ることができます.科学的知識を背景に,未来を見通し,科学と人間性との関係を問う.それが「SFのマインド」なのではないでしょうか.
期間:2017.12
場所:伊都図書館